空想特撮シリーズ
7章 剣山 〜終焉〜
「さ、着いたわよ」 アルバトロス一号は剣山麓に着陸していた。 BGAM本部から極秘指令による特別召喚を受け留守をしているサキョウに代わり、フドウの命でシュンを徳島へ送ってきたのはセイラだった。 「最後までお世話になりました、セイラ隊員」 私服姿のシュンはコクピットを立ち、後部コンテナに格納してある彼の自動車へ向かおうとした。 「あ、シュン…」 「え?」 不意にセイラに呼びとめられシュンはドアノブに手をかけたまま振りかえった。 「何ですか?」 「え、あ、ううん。忘れ物、無いわね」 「はい、荷物は全部車に積んでありますから」 「そう」 「じゃあ」 「シュン」 「はい?」 「山岳警備隊本部にはフドウ隊長から連絡が入ってるはずだから。明日にでも復職できるそうよ」 「そうですか、助かるなぁ。隊長にお礼を言っておいてください」 シュンは会釈をするとドアノブを回した。 「あ…」 シュンは三たび振りかえった。 くどいなどとは思わなかった。セイラの気持ちは痛いほどわかる。だからこそシュンは未練を隠して飄々と立ち去りたかったのだ。 セイラは最後の言葉を選び終えると笑顔で声に出した。 「元気でね」 シュンも笑顔で敬礼をし、流れるようにドアの向こうへ消えた。 アルバトロスはシュンの乗る自動車を降ろすと、ゆっくりと高度を上げ東の空へ飛び去った。 シュンは車を降りると、今まで愛してやまなかった剣山系の山々を存分に眺めた。BGAMに入隊してわずかな日数であったにもかかわらず、眼前に開ける山々の姿は何だかとても懐かしいものに思えた。 この山を降りて能登へ向かう時、シュンの傍らにはデラがいた。彼女がシュンをあの戦いへといざなったのだ。 BGAMへ入隊しようと思った時。自分の中にいるウルトラマンアミスの能力に戸惑った時。グラゴ星人追撃に行き詰まった時。デラは必ずシュンに力を貸してくれた。 グラゴ星人を撃退した二日後、そのデラは入院先の一条記念病院から忽然と姿を消したのだそうだ。 瀕死の重傷を負った彼女が、わずか二日で退院できるまでに回復するとは思えない。たとえ超能力を駆使するルパーツ星人であったとしても、だ。 病院側はあくまでも正式な手続きをしたうえでの退院であると主張したが、この星で天涯孤独であるはずのデラに、いったいどのような手続きが行えるというのか。 BGAMサイドもデラの身を案じてフドウ隊長自らが病院側へ詳しい説明を求めに足を運んだのだが、デラが既にBGAM臨時隊員の資格を失っていることを理由に、退院のための書類など一切は閲覧できなかったらしい。 ただ、クリーニングされて綺麗にたたまれたBGAMのユニフォームと装備一式が、病院の事務局長を通じてフドウに返却されただけだったという。 ―君らしいな。 風が夏の香りを乗せてシュンの髪を弄んでいった。シュンは風の吹いてきた方を振りかえった。 少なくともデラはどこかで生きている。もう会うことはないだろうが、彼女は人間としてこれからこの星で生きてゆくのだろう。 彼女なら大丈夫だ、とシュンは思った。 あの時、この星とこの星のすべての生命を護りたいと念じた彼女の願いに応じて「地球」はアミスに救いの手を差し伸べた。デラの要請で、自身が内包する膨大なエネルギーをウルトラマンアミスに向けて送り込み、彼の完全なる覚醒を促したのだ。つまり、デラはこの星に「この星の生命」のひとつとして認められたということだ。 これから、地球人となったデラの生活がどこかで始まる。 ―それでいいじゃないか。 シュンは再び車に乗り込むとエンジンを始動させた。 (完) |