今日も今日とてヨーゴス軍団は。。。
ついこの間まで「暑いですねぇ」などと言っていた挨拶が「めっきり寒くなりましたね」に変わってきた。
寒くなると毎年話題になるのがインフルエンザである。
今年の流行は何型なのか?
ワクチンは足りているのか?
医療が発達した現代においてなお、予測できない、有効なワクチンが国民に行き渡らないという困った状況を作り出すインフルエンザ。
もっと気軽に、しかもあらゆる型に対応できる万能ワクチンが摂取できないものか?
「え〜ワクチン。インフルエンザのワクチンはいかがでしゅか?」
「よく効くワクチンで〜しゅ」
「通りすがりにうっていきましぇんかぁ〜」
「え〜ワクチン、ワクチン。お手軽ワクチン」
なんだコイツら?
白衣を着ているが、あきらかに怪しい。
白衣の胸に黒いマジックでワクチン屋と書かれている。
「アニキ、カモ来ませんね」
「タコ!カモぢゃない。お客さまだろ」
ポカッ!
「ううう。。。それにしてもビザーン先生遅いでしゅね」
「あのバカ!また道に迷ってるに違いない。オレはいつも思うんだが、あのバカはきっとバカなんだぜ」
「ビザーン先生が通行人を無理やり捕まえてくれなきゃ商売あがったりでしゅね」
ビザーン。。。先生って。。。
「あっカモ、ぢゃないお客さま。。。???ゲゲッ!」
ブロロロロ!
怪しいコイツらの正面に停まったサイドカー付きの青い大型バイク。
徳島県民なら誰もが知っているスーパーバイク・ヴォルティカだ。ならばそのライダーは。。。
「渦戦士エディー!」
「エリスもいるっ!」
怪しいワクチン屋はのけぞった!善良な徳島県民なら渦戦士エディーとその相棒エリスを見てのけぞるわけがないのだが?
ふたりはゆっくりとバイクから降りると悠然と怪しいワクチン屋たちの前に歩み寄った。
「お前たち、こんなところで何してる?」
エディーの声は既に怒気をはらんでいる。
「イ、インフルエンザのワ、ワクチンを県民の皆さんにうってあげるでしゅ」
「悪い?」
怪しいワクチン屋は正義の渦戦士を前にあきらかにうろたえているが、それでも胸をはって応えた。
「黙れ!インフルエンザのワクチンはこんなところで通りすがりにうつものじゃない!」
「そうよ。ちゃんとした医療施設できちんと管理されているんだから。こんなスーパーの駐車場の真ん中に勝手に陣取って!お店の方もお買い物に来た人たちも気味悪がって困っているのよ!」
「お、お、お手軽に摂取できるインフルエンザワクチンでしゅ。画期的でしゅ」
「悪い?」
エリスがエディーの前に出た。絶対怒っているぞ、知らないぞ。
「画期的にもほどがあります!」
「ひっ!」
戦闘力はともかく、怒っているときのエリスの迫力はエディーの比ではない。
「この期に及んでまだ小芝居続ける度胸は認めてあげるけど、あなたたち、いつからココでそんなことやっているの?」
「かれこれ40分くらいでしゅ」
「悪い?」
「その40分あまりで、怪しい連中が変な薬を打とうとしているっていう通報が180件以上来ているのよ!」
「しかもその9割以上の通報で『ヨーゴス軍団が』って既に言われてるんだ」
「この屋台、どこで盗んできたのよ?」
「盗んでないっしゅ。これは棄ててあったんしゅ」
ポカッ!
「これはとある病院から依頼を受けて支給された簡易ワクチン施設でしゅ」
「そんなものがあるか!何だよそこのソースの缶は?」
「それにこの看板!『イソフルエソザ』って書いてあるわよ。字も満足にかけない医療関係者の方々がいると思ってるの!?」
エリスの指摘に、怪しいワクチン屋ふたりは額をつきあわせた。
「やっぱり『ン』は下から上へはねあげるんじゃないか」
ポカッ!
「ううう、おかしいっすねぇ」
などと内輪もめを始めた。
「ヒソヒソ話をしない!しかも聞こえてるぞ」
「第一、医療関係者のふりをするならドクロマークのヘルメットなんかかぶってるんじゃないわよ、まったく!」
「いろいろ言われすぎて言い返せないっしゅ」
「悪い?」
「で、いったいこれは何の薬品なの?白状しなさい」
腕組みをしたエリスがズイと迫った。
「ひっ!こ、これは。。。ゴ、ゴ、ゴキ。。。ゴ。。。インフルエンザワクチン。。。」
バンッ!
エリスが屋台の台を叩いた。
「フン。やっぱり人間をゴキブリ怪人に変えるゴキブライザーね。薬品は没収。屋台は持ち主に返却します。あなたたちはさっさとアジトへ帰って反省しなさい!」
「さもなくば、渦戦士の権限において実力を行使するぜ」
今度はエディーが前へ出た。この男が行使する実力はハンパない。
「ひいいいん」
「おぼえててくださいませ〜!」
ふたりの怪しいワクチン屋、いやヨーゴス軍団の戦闘員1号と2号は屋台と薬品をほったらかして走って逃げていった。
溜息をつきながらエディーとエリスは後片付けを始めた。
―――と、そこへ。
ぐるるるる。
体長3メートルはあろうかという巨大なモンスターが駐車場にやってきた。
異様な気配に振り返ったエディーとエリスは同時にその名を呼んだ。
「ビザーン!?」
集合場所がわからず遅れてやってきた、ビザーン先生が今ご到着だ。
あいかわらずアンバランスなほどに大きな頭部は徳島市のシンボル眉山を模したものだ。だが今日はご丁寧にワクチンと背中にマジックで大きく書かれた白衣を着ている。いや、ワクチソだ。
ビザーンのほうでも、いるべきところにいるはずの仲間の代わりに、宿敵の渦戦士ふたりがいたことに驚いているようだ。
ごおおおおああああ!
町全体が揺さぶられるような凄まじい咆哮をあげるや、エディーめがけて襲いかかった。
エリスを巻き込まぬようエディーはあえて屋台から離れてビザーンを待ち受けた。
エディーの太ももよりも太いビザーンの腕が伸びて重機のようなパンチがエディーのボディーを襲う。咄嗟に両腕をクロスさせてガードしたが、エディーはそのまま数メートル後方へ飛ばされた。
ぐうう。
ガードした腕がビリビリしびれている。腕を突き抜けた衝撃が胸に鈍い痛みを残している。渦パワーが形成したアーマが無ければどうなっていたことか。
「相変らず凄いパワーだな。だが。。。ハッ!」
エディーは大きくジャンプすると空中で2度回転して全身の渦パワーを体内で練り上げた。
「エディー撃渦穿孔脚〜げきかせんこうきゃく〜!!!」
エディーの体が宙に舞う青い渦となってビザーンのボディーに突き刺さった。
ズガーーーン!
ぐるああああ!
ビザーンは両足を天に向けてひっくり返った。
「パワーだけじゃオレには勝てないぜ」
バチバチ!
ビザーンの体のあちらこちらで火花が散っている。エディーの手痛い一撃を喰らってボディーのどこかに不具合を生じたようだ。
エディーがとどめの二撃目を放とうと構えたとき、ビザーンの周囲の大気がぐにゃりと歪んだ。
「ナニ?」
歪んだ大気からぬぅと現れたのはヨーゴス軍団の大幹部ヨーゴス・クイーンだ。赤く充血した大きな目がじっとエディーを見据えている。
その怪しい目ヂカラに、エディーは刹那足が止まった。
「バーカ」
ヨーゴス・クイーンはそう言い残すと、行動不能に陥ったビザーンもろとも、大気の歪みの中に姿を消した。
そして、いち・にい・三秒後。エディーはようやく警戒を解いてはぁっと短く息を吐いた。
そしてそこはまたいつものスーパーの駐車場に戻った。
「ご苦労様エディー。大丈夫?」
エリスが近寄ってエディーを気遣った。
彼らの背後で買い物客の車が駐車場に入ってきた。
夕餉の準備にはまだまだ間に合う。これから何も知らない買い物客たちが大勢やってくるだろう。
それでいい。
エディーとエリスは笑顔で頷きあった。
何ごとも無い、いつもどおりの時が流れてゆけばよい。
だからこそヨーゴス軍団の悪だくみがどこでどのように行われようとも、そこには必ず渦戦士が立ちはだかるのだ。
そして徳島の平和は必ず守られる。
ここは渦の戦士がいる街なのだから。
(完)