渦戦士エディー
タレナガースの逆襲 〜エディー暗殺計画〜
<<エリス公認>>
ゴゴゴゴゴ。 鳴門海峡では今日もさかんに渦が巻いている。 深夜二時。 一隻の船が大鳴門橋の橋脚近くに出ていた。渦潮を間近で楽しむための観潮船。だが、こんな時間に観光客を乗せて出港するはずもないが・・・。 「ふぇっふぇっふぇっ!渦よ巻け。もっと強く!」 デッキに立つ怪しい影は、秘密結社ヨーゴスの首領タレナガースだ。 鋭いキバのはえたシャレコウベのマスクに狐狸妖怪の毛皮でこしらえたマント。その全身には常にどす黒い邪気がまとわりついている。害悪を垂れ流し、世によからぬことを為さんとて暗躍する人外のテロリストだ。 船の縁から楽しげに鳴門の潮流を覗き込んでいるが、まさかこやつも渦潮見物であろうか? ―――否。 その手には一条の鎖が握られており、その先端は渦潮の中へと消えている。 ごぶ・・・ぐ・・・げふぅ 突如渦潮の中から人の顔が現われた。 タレナガースの忠実なるサイボーグ戦士、ダミーネーターだ。 タレナガースが握る鎖に上半身をグルグルに巻かれて四肢の自由を奪われている。これはまるで・・・簀巻き状態ではないか。 ダミーネーターは見事な筋肉が隆起する全身をくねくねとくねらせて器用に泳ぐと、観潮船の縁にとりついて口と鼻から大量の海水をぴゅうと吐き出し、情けない顔を船上のあるじに向けた。 「タ、タレナガース様・・・わし・・・死ぬかもしれません、オエッ」 激しい潮流の底へ一体何時間放り込まれていたものか、普段は悪のエナジーみなぎるダミーネーターの消耗が異様に激しいのは一目瞭然であった。 「やかましい!死ぬというのなら貴様の判断で勝手に死ねばよい!」 タレナガースの言葉はいかにも悪者らしく一片の情もない冷たいものだ。 「余が欲しいのはデータなのだ。にっくきエディーのパワーの源たるヤツのコアが持つ力の数値なのだ。そのために貴様のボディで渦のパワーを測定しておるのだ。貴様が生きていようと死んじまおうと余はどうでもよいのじゃ」 「ひいいいいいい」 タレナガースの情け容赦ない足蹴でダミーネーターはふたたびくるくる回転しながら渦の底へと姿を消した。 タレナガースの足元には大型のスーツケースほどもある謎の機器が置かれている。そのパネルにいくつも取りつけられたデジタルメーターにはダミーネーターのエナジー消費量のほかに潮流の速さやその破壊力が、それぞれに数値化されて記録されてゆく。 タレナガースはしばらく鳴門海峡を見回していたが、操舵室に向かって怒鳴りつけた。 「あちらでもっと大きな渦が巻いておるではないか!効率よく船を動かさないかっ!」 操舵する船長に禍々しいツメを向けて威嚇するとカァーと口から毒気を吐いた。 「ひ・・・はいぃ」 拉致されて怯えきった船長は、震える手で船を回頭させた。 ―――待っておれエディー。必ず貴様のエナジーを上回る兵器を開発してやるぞ。今に必ずや吠え面をかかせてやるぞ、エディィィィー!
(二) 吉野川。 利根川・坂東太郎、筑後川・筑紫次郎と並び四国三郎の異名を持つ日本有数の暴れ川である。 古くから流域の人たちはこの暴れ川の治水、利水に苦心してきた。平静の御世となってもそれは変わらない。人々は橋をかけ、護岸工事を重ねた。そしてなんとかこの暴れん坊のご機嫌をとって豊かな水資源の恩恵に与っているのだ。 その吉野川河口からわずか2キロメートル上流にかけられた「阿波しらさぎ大橋」は徳島県が慢性的に抱える交通渋滞を緩和させるべく2012年4月に開通した、河川にかけられたものとしては四国最長の橋である。 その橋塔上に人影が? 全身がどす黒い邪気に覆われていてその姿を夕闇に隠しているようだが、強い海風がケモノを思わせるマントをはためかせ、禍々しいシャレコウベの顔を露出させてその正体を暴いている。 「そんなところで何を企んでいる、タレナガース」 しらさぎ大橋にかけられたケーブルの上に立つは勇者エディーである。常人ならば平地でも立っていられぬほどの強い海風の中、エディーは傾斜度がキツく細いケーブル上に腕組みをしたまま平然と立っている。 エディーとタレナガース、自然の理を超越した存在同士が立つは正邪の対極。 「来おったなエディー。いつもいつもハエのごとくうるさくつきまとう輩よ。まあよい。この心地よい海風に少しばかり余の好む香りを乗せてみようと思うての」 タレナガースはいやらしく湾曲した鋭いツメでカブトムシほどのカプセルをつまんでホレホレと見せびらかした。 「貴様の好きな香りだと?どうせろくなもんじゃないだろう」 「無礼を言うでない。この芳香がわからぬか無粋者め。まあ、余には良い香りでも人間どもには少し吐き気とめまいと頭痛が伴うがの。ふぇっふぇっふぇっ」 「やはりな。そのカプセルは没収させてもらうぜ」 言うなりエディーはケーブルの上を駆け出した。風を切って奔る! だが、エディーの右手がタレナガースに届く寸前、敵はふわりと宙に舞うとくるくる自転しながら橋の歩道上にゆっくりと降下していった。 「逃がさん」 追ってエディーも飛び降りる。共に30メートル近い高さを物ともせぬ運動能力である。 落下速度で勝るエディーは空中でエディー・ソードを出現させるや、落下の勢いもろとも上段から着地したタレナガースに斬りつけた。 せいやっっっ! 必殺の斬撃を間一髪でかわしたタレナガースの体技もさすがだが、振り下ろしたエディー・ソードの衝撃波がタレナガースの持つ毒のカプセルを弾き飛ばした。 「ああっ?」 橋の欄干から飛び出して吉野川に落下しそうになったカプセルをはっしと受け止めたのはエディーの相棒エリスだった。 「おっ、ナイスキャッチだ、エリス」 「イェーイ」 手にしたカプセルを高々とかざして得意満面である。 「それは毒性物質が詰まったカプセルだ。エリス、内容物を分析してなんとか中和させてくれないか」 「オッケー、まかせて」 エリスは頷くと戦いの場から駆け足で離脱した。 「さあて、貴様の企みはまたしても失敗したぞ。いい加減に降参して悪事から手を引け」 「ふぇっふぇっふぇっ。失敗か・・・はたしてそうかのう」 「何?まだそんな負け惜しみを」 エディーは愛用のソードを構えた。
「あれ?」 橋の南詰めではエリスが自前の機材を使ってカプセルの中身を分析していた。簡易機材だが、対ヨーゴス軍団用にエリス自身が改良したこれらの機器は、過去にやつらが使用した毒性物質のデータがすべてインプットされており、それらの組み合わせで実に百数十通りの毒物中和パターンを実行させることができる。 しかし・・・ 「このカプセル、中身はただの空気だわ」 つまりカプセルは空っぽということだ。嫌な予感がエリスの胸をよぎった。タレナガースは極悪人だがバカではない。 「いけないエディー、これは何かの罠だわ」 エリスはふたたび橋の中央部へと駆け出した。
エディー・コアには力がみなぎっている。構えたエディー・ソードの切っ先は狙いたがわずタレナガースのマスクを捉えていた。 「今日こそ斃す」 無言の気合とともにエディーはソードを構えて風のようにタレナガースに迫った。 ふぇっふぇっふぇっ。 いつもならエディーの神速の攻撃に気圧されて後退るタレナガースが今宵は不気味に嗤っている。バッとケモノのマントを跳ね上げるや、背後から何やら筒状の兵器を取り出して構えた。 構わず突っ込むエディーに向けてトリガーを引いた。 「エディーだめぇ!」 ドルルルルルルルルルルルルルル エリスの叫びと兵器の発射音が重なった。 銀色の筒状兵器からは赤く輝くプラズマ弾が渦を巻きながら発射され、ソードを最上段に振り上げてガラ空きとなったエディーのエディー・コアに命中した。 ぐっ・・・ぐああ! 両足を踏ん張るエディーだが、撃ち出されたプラズマ弾はエディーの体を貫いて背後から射出している。やがて力尽きたエディーの体が風車のように回転しながら後方へ弾き飛ばされた。 欄干に背中から打ちつけられて歩道に倒れたエディーは呻くばかりで立ち上がることができない。 「ふぇーっふぇっふぇっふぇっ。思い知ったかエディー。これこそは余が鳴門海峡の渦潮のデータをもとに発明したアンチエディー・キャノンである。渦のパワーすなわち貴様のエディー・コアのパワーを研究し尽くし、それを上回る反エディー・エナジーの放電をお見舞いしたのじゃ」 自慢たらたらで倒れたエディーに近寄ると「バカめ」と吐き捨てるように言うと次弾装填の準備をした。 「とどめだ・・・ん?ありゃりゃ?」 タレナガースはアンチエディー・キャノンの銃口を覗き込んだ。そこには無数のヒビが走っており、よく見ると一番深いヒビは銃身の根っこにまで届いているではないか。このままあの強力なプラズマ弾を撃てばキャノンは破裂し、エディーもろとも射手のタレナガースまで爆発に巻き込まれて粉々になるだろう。 「ちっ、パワーの大きさに銃が耐え切れなかったか。これからはエナジーパックを切り離せるようにして銃そのものを使い捨てにしなければならぬようだな。まったく厄介なものだ」 タレナガースは動かなくなったエディーの即頭部にケリを入れると「くたばったようじゃの、ふぇっ」と言い残し、ヒョイと欄干を越えて吉野川へダイブした。 橋の下ではダミーネーターがパワーボートを用意しており、タレナガースが乗船するや猛スピードで紀伊水道へと消えていった。 「エディー!」 しらさぎ大橋に取り残されたエディーのもとへエリスが駆け寄った。 両手で抱きかかえて何度も何度もその名を呼び続ける。彼女の声が涙声に変わった頃・・・エディーの意識が戻った。 「エ・・・リス」 「エ、エディー大丈夫?しっかりして。お願いしっかりして!」 エディーはわが身を抱くエリスの腕に弱弱しく右手を重ねた。 「だい・・・じょう・・・ぶ・・・すまな・・・い」 そう言ってエディーの意識はもう一度途切れた。
(三) <用水路に有害物質 悪質ないたずらか?> <○△株式会社の工場煙突から発がん性物質検出。本来排出されるはずのない物質がなぜ?> <PM2・5徳島上空に集結?他県よりも高い数値を観測>
連日のように新聞に掲載されるニュースは、何者かによって徳島が確実に毒されてゆくさまを表わしていた。 「タレナガースの仕業よ。好き放題してくれちゃって!」 ドクは悔し紛れにバンとテーブルを叩いた。 周囲の客達がおしゃべりをやめて、何事かとドクを振り返っている。 若い男性客はさらに興味深げな視線を送っている。 ―――いっけない。 彼女は徳島市内のカフェで新聞を読みながらホットコーヒーを飲んでいた。前に「おっさんみたいだからやめろよ」とヒロに注意されたことがあったが、この癖はいまだに直っていない。 急いで席を立ったドクは立ちくらみを覚えてよろめいた。 「大丈夫ですか、お客さん?」 レジでマスターが心配そうに尋ねた。 「え、ええ。すみません。何でもありません」 支払いを電子マネーエディで済ませてエリスは店の外へ出た。やはりまだ少しふらついている。眩い日差しにすらスタミナを奪われてゆくようだ。 ―――あたしゃ吸血鬼かっての。 エディーがタレナガースの新兵器の前に一敗地にまみれてから十日経つが、いまだにエディーは立ち上がれずにいる。実際、しらさぎ大橋でエディーは死にかけていたのだ。 タレナガースのアンチエディー・キャノンから放たれたプラズマは、コアの中で渦巻くエナジーの流れを堰き止めてしまった。堰き止められたエナジーは沈滞し、その輝きを失い、やがてコアから蒸発してしまった。 あの時エリスが咄嗟の判断で自らのエディー・コアから渦のパワーをエディーに分け与えていなければ、彼の命の泉は枯れ果てていたにちがいない。 しかしその代償として、エリス自身もまた変身能力を失ってしまった。いや、人間として普通に生活することすらままならぬほどに衰弱している。生来の医者嫌いゆえにこうして気ままに生活してはいるが、本来ならばエディーいやヒロと同じ病室でベッドを並べて点滴を受けていなければならないはずなのだ。 しかしエリスいやドクにはやらねばならないことが残っている。 ヒロをふたたび渦戦士エディーとして復活させねばならない。 そしてタレナガースのアンチエディー・キャノンに対抗する方法を考えねばならない。 おとなしく寝てなどいられようか。 本人は気づいていなかったが、カフェを出てかなり不自然に蛇行しながらマンション兼研究室まで帰りついたドクは、気休めのビタミン剤をひとつかみ口に放り込んで、バリバリと噛み砕きながら愛用のPCを起動させた。 エディーの力、渦。 アンチエディー・キャノンの力、渦。 どちらも力の根源は渦。 ダメだ。アンチエディー・キャノンのしくみがわからなければ、あのプラズマがどういう作用でエディー・コアの中のエナジー対流を堰き止めて蒸発させてしまうのかがわからなければ、対抗策など編み出せるはずも無い。そうした理論のすべてを飲み込んで凌駕するほど圧倒的なパワーアップでもしない限り、ヒロを再びエディーに変身させられてもまたタレナガースにやられてしまう。そして今度は確実に・・・命を落とすだろう。 「どうすればいいの」 勝気なドクが弱音を吐いた。 あれこれ考えてどれくらい経っただろう。今日は疲れたからもう休もうと部屋の明かりを消すと、照明のかわりに月の光が煌々と室内に差し込んだ。 その夜は満月だった。 満月の夜はなぜかいつも胸の奥がぞわぞわする。 「あたしゃ狼人間かっての」 そういえばエディーも同じようなことを言っていたのを思い出した。渦のパワーって狼人間と一脈通じるところがあるのかしら。 「フフ、まさかね」 仰向けにベッドにひっくり返ったドクはあることに思い至って再び跳ね上がった。 足元がふらついてテーブルに片手をついて体を支える。 ―――満月・・・そうよ満月よ!この胸の奥にくすぶるムズムズ感は・・・。 書棚から一冊の分厚い本を抜き出すと、パラパラとページをめくり食い入るように読みはじめる。 突然パン!と荒々しく本を閉じると、ドクはよろよろとベランダに出た。その顔色とは対照的に満面の笑みを浮かべている。そして、夜空に浮かぶ巨大な真円の光源に高々とVサインを送った。
(四) コアBOXには新しいエディー・コアがセットされている。かつてヒロが体内に取り込んだエディー・コアを錬成していたものよりもひとまわり以上大きなコアBOXである。通常の家庭用電源では到底これを作動させることはできないため、ドクお手製の増幅装置に接続してある。 「ああ〜、来月の電気代・・・請求書を見るのが恐ろしいわ」 しかし当面の目的は節電ではない。うまくいったあかつきには我が家の公共料金は全部ヒロに支払わせてやる。ドクはあやうく「ふぇっふぇっふぇっ」と笑いそうになった。 そもそも化石燃料に替わる無害で無限の自然エネルギーとしてのエディー・コア研究はドクのライフワークと言っていい。第一号がヒロの体内に摂取されて彼を正義の渦戦士エディーに変身させた後もこうして第二号の研究は続けていたのだ。 コアの中では脈々と息づくエナジーが、まるで小宇宙のように光り輝いている。 前のコアよりも小型だがより強力な渦パワーを内包している。これならばヒロを再び勇者として立たせるに十分なエナジーレベルである。そして彼女自身をも。 「あとはアンチエディー・キャノン対策ね。だけど私の仮説が正しければ必ず勝てるわ」 そして結局「ふぇっふぇっふぇっ」と笑った。
ふぇ〜っふぇっふぇっふぇっふぇ〜 やはり本物の笑い声はひとあじ違う。 鼻先に毛虫が落ちてきて、同時に足元からムカデが這いあがって来た時のような怖気に襲われる。 徳島の夜景を見下ろすロープウエイ眉山山頂駅の屋根の上に立つ人影からは、夜の闇よりもひときわ深い闇を思わせる毒気を帯びたオーラが漂いだしている。 タレナガースだ。 「にっくきエディーは斃した。もはや余の邪魔をする者はいない。余のやりたい放題じゃ。さぁて毒の雨を降らせてやろうか。それとも吉野川を化学物質でびっしり汚染してやろうか。楽しみじゃのう。楽しみじゃあああああ」 両手を高々とかざした先には、赤く巨大な満月が浮かんでいる。タレナガースにはあの月からですら真っ赤な毒液がしたたり落ちてきそうに思えて愉快だった。 ああ、不吉な良い月だ。 ふぇっ〜ふぇっふぇっふぇっふぇっはっはっは・・・? ―――? あ〜っはっはっはっはっは。 「コラ!せっかく余が気持ちよく笑っておるのに、妙な笑い方で邪魔をするのは誰じゃ?」 慌ててあたりを見回すタレナガースは、電波送信塔の最頂部に立つ人影を発見した。 頭部は渦をあらわす額の青いシンボルとしらさぎの羽飾り。胸には向かい合うエディーのEに囲まれた神秘の光を湛えるエディー・コア。 「うぇ!?貴様エディー!ナゼじゃ?」 「ナゼって、そりゃ俺が正義の味方だからさ」 「そんなんアリかぁあああ」 肩をすぼめておどけてみせるエディーに、タレナガースは苛立って口から大量に瘴気を吐き出した。 「いっつもいっつも正義の味方はズルイぞよ。まあよい、何度現われても余の必殺アンチエディー・キャノンで返り討ちじゃ。今度こそ死ね!」 タレナガースはケモノのマントを跳ね上げると背後に潜ませていた銀色のキャノンをすばやく構え、はるか頭上のエディーを狙ってトリガーを引いた。 ドルルルルルルルルルル! ドリル状に渦巻きながら赤いプラズマ弾が奔る。 しかしエディーはこの攻撃を予測していた。送信塔の最頂部からヒラリと宙返りしてプラズマ弾をかわすと、着地と同時にエディー・ソードを構えた。 ―――さぁリターンマッチだ。感謝するぜ、エリス。 ドルルルルルルルルル! タレナガースはアンチエディー・キャノンを撃ってはエナジーパックを取り外して新しい砲に取り付ける。一体何本の砲を隠し持っているのか? だが、前の戦いと違ってエディーも同じ手は食わぬ。距離をおいているから苦もなく敵の攻撃をかわすことができる。プラズマ弾の無駄遣いである。 「手の内がわかってしまえばどうということはない。そろそろ決着をつけるぞ」 エディーは満月を背にして立つとエディー・ソードを正眼に構えた。 胸のエディー・コアがにわかに光を増した。 その光はエディーの全身をも包み込んだ。まるで彼が月の光と同化したようだ。いや、月の光のほうがエディーに同化したものか? 夜の闇を退ける強い光に、タレナガースはエディーを正視できなくなっていた。辛うじて逆光の中のシルエットを薄目の中に捉えるのが精一杯だ。 「な・・・なんだ?ナニが起こっているのだ?この光はなんだ?」 このような現象は以前のエディーには起こせぬはず。 「ふふふ、教えてやろうか」 今夜は満月だ。つまり地球をはさんで月と太陽は反対の位置にある。この時海は星の引力で満潮を向かえ干満の差がもっとも大きくなる。つまり渦を発生させるエナジーが最大レベルとなるのだ。 「そして見ろ!今夜の月は特に大きい。いわゆるスーパームーンだよ」 楕円形を描く月の公転軌道が地球に最も近づくこの日は、月の大きさが最も遠い位置にある日に比べて10数パーセントも大きく見える。その引力は渦のパワーに拍車をかけ、通常のエディーパワーをはるかに凌ぐ攻撃力を発揮させる。 エリスが発見したエディーの潜在能力が今、いかんなく発揮されようとしているのだ。 エディー・コアからあふれ出た光はエディー・ソードに伝わり、はかりしれない破壊力をその切っ先に集中させていた。 「なにくそ!余が綿密に調べ上げたエディーの力、既に見切っておる。そんなこけおどしにだまされはしない!くらうがよい、余渾身の一撃を」 ドルルルルルルルルルル アンチエディー・キャノンが咆える。 迫るプラズマ弾を大上段から叩き斬るかのように、エディーはソードを振り下ろした。 「必殺!エディー・タイダル・ストーム!!!」 高いビルディングですら真っぷたつにできそうな巨大なオノのごとき衝撃波がソードから迸り、プラズマ弾を粉砕してアンチエディー・キャノンの砲身を打ち砕いた。 ぎゃああああああ! 原型を留めぬほどに破壊されたキャノンの火花がアンチエディー・エナジーを誘爆させ、タレナガースは青白い炎に包まれて悲鳴を上げた。 ケモノのマントが黒煙を上げ、シャレコウベのマスクが高熱のためにひび割れた。 「ひいいいい、ダミーネーター火を消せぇ!」 夜の闇からタレナガースの忠実な家来ダミーネーターが消火器を持って走り出て、地面にうずくまるあるじに向かって白い消化剤を噴射した。 そして、今度は真っ白になってピクピク痙攣しているタレナガースを小脇に抱えるや、エッホエッホと再び闇の中へ姿を消した。 「ま、待て・・・」 追撃しようとして、しかしエディーはその場に片ひざをついた。 「くそ・・・ここらが限界か」 「そうよエディー。無理しないで」 いつの間にかエリスが傍らに歩み寄って、立ち上がろうとするエディーに手を貸した。 「病み上がりのあなたがタイダル・ストームを撃つだけでも無茶なのに。でもよく戦ったわ」 エリスの言葉に頷くエディーには宿敵を撃退した満足感があった。 「タレナガースは傷を癒してまた挑戦してくるだろう。だったら俺たちはヤツを迎え撃つだけだ。何度でも、徳島に平和の礎が築かれるその日まで」 ふたりは大きな満月に心の中で感謝した。それは先刻タレナガースが思ったような邪悪な光源ではなく、あらゆる邪気をうち祓って地上に清浄なる光をふり注いでくれる正義の象徴であった。
タレナガースの野望を打ち砕き、徳島の街に再び平和が訪れるその日まで 戦え!!渦戦士エディー!! <完>
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