渦戦士エディー
異空間を突破せよ!
(序)ドローンは見た
午後10時。
ポストプロダクション会社のスタジオでは今夜も徹夜の編集作業が行なわれていた。
今日の日中、徳島県西部の山々をドローンで空撮した。四国の自然を紹介する番組の中で使用する瑞々しい山の緑を高空からたっぷりと撮影したのだ。今はその映像の編集作業中である。
高価な編集器材に向っているのは会社で一番のベテラン男性スタッフだ。背後のデスクには空になったコンビニのホットコーヒーのカップが置かれている。時間と根気の要る作業なのだ。
―――それにしてもよく撮れているなあ。
空撮用カメラも軽量、高性能化が進み本当に綺麗な映像が手に入るようになった。どの部分の映像を使うか迷ってしまう。
吉野川の河原から徐々に高度を上げて一気に山頂まで遡る。今度は自動車道に沿って飛んでいる。
「うん?」
編集スタッフが小さく声を上げた。首を傾げて少し考えた後、映像を少し巻き戻してもう一度再生する。
「そんな。。。そんなアホな?」
先ほどよりも顔をモニターに近づけてその映像を見た。
「やっぱりだ」
同じことを2度繰り返して、そのたびに同じことをつぶやいて、編集スタッフは背もたれに体を預けて天井を見上げた。
「これは。。。えらいこっちゃ!」
(一) レスキューロボットは見た
そのトンネルの東側の入り口にはパトカー2台と国交省の車が1台停まっている。
そして青いサイドカーが1台。渦戦士エディーとエリスの専用バイク、ヴォルティカだ。
「ここか」
エディーはかまぼこ型に開いたトンネルの入り口を見上げた。
千守山トンネル<SEMMORI-YAMA TUNNEL>と記されたプレートがコンクリートの土台に埋め込まれている。全長4,421メートル。徳島自動車道で最も長いトンネルだ。
長いことに加えてゆるやかにカーブしていることもあって、反対側の出口はここからでは見えない。
エリスが首を伸ばしてトンネルの奥を見やった。が、すぐに2、3歩後ずさる。
「なんか、こうして見るとトンネルって不気味だわね」
今、徳島自動車道のこの区間は通行止めになっている。1台も車が通らぬしんとした奥深い空間は、普段意識したことのない、日常とは隔絶された雰囲気をかもし出している。
約2時間前。
早朝パトロール中だったエディーとエリスは緊急の呼び出しを受けて県警中央署にやって来た。
パソコンとプロジェクターの用意がされた会議室に通されたふたりが見せられたものは、昨夜ポスプロ会社のスタッフが撮影した映像だった。
初めのうちは早送りでとばし、途中からノーマルの再生を始めた。
「ここです」
係官の指示でエディーたちは集中力を高めて映像を見た。
そして15分後、ふたりは既に映像を見ていた人たちと同じ困惑した表情に変わっていた。
「トンネルに入った車が。。。出て来ない?」
とにかく現場へ行きましょう。とエディーが全員を促し、この場所に陣取ったというわけだ。
映像では下り車線からやって来た7台の車がトンネルの東側の入口へ入っていったのだが、待てど暮らせど西側の出口からは1台も出て来ない。
トンネルの中で何が起こっているのか?まだ謎が多いが、それだけにこのトンネルをこれ以上通らせるわけにはゆかない。
「タレナガースのしわざかしら?」
エリスの問いにエディーは無言で頷いた。わけのわからない事件は十中八九ヤツのしわざに違いあるまい。が、トンネルひとつまるごと怪奇ゾーンにしてしまうとは。
しばらく待つとレスキューロボットが現場に到着した。
いずれエディーもこのトンネルに入ってみるつもりだが、まずは試せる手を試し、少しでも事件解決の手がかりを得ておきたいところだ。
スタンバイしたレスキューロボットはもともと瓦礫を走破するためのキャタピラーを履かせていたのだが、フラットなトンネル内を走らせる今回のミッションにあわせて急遽8輪駆動のタイヤが装備されている。シャーシの上には360度カメラと赤外線センサーを搭載していた。
ジイイイイというモーター音を伴ってラジコン操作のレスキューロボットがトンネルの中へと移動を始めた。時速は約5キロ。鬼が出るか蛇が出るか。カメラが捉えたトンネル内の映像に、一同は食い入るように見入った。
だが、モニターに映るものはただ無機質なコンクリートの路面と壁ばかり。入り口から遠く、陽光が差さぬあたりからは天井の左右に並ぶオレンジ色のナトリウム灯がそれに加わった。だがヨーゴス軍団やモンスターの姿はおろか、動くものは猫1匹写ってはいなかった。
はたして約50分後、レスキューロボットは何事もなく反対側の出口から陽光の元へ姿を現した。
「何の異変も感知できませんでした」
レスキューロボットが送った映像をリアルタイムで分析していた科学班のスタッフも首をかしげた。
―――本当にこのトンネルで何か問題があったのだろうか?
誰も口にはしなかったが、皆の脳裏に同じ疑問が浮かんでいた。しかし現実に7台の車がこのトンネル内で消えている。実際には他にももっと多くの車が消えているはずだ。
「消えた車とレスキューロボットの違いって何かしら?」
エリスが自分に問いかけるように呟いた。
「人が乗っているか、機械だけか。とかでしょうか?」
「もしくは、スピード」
科学班のスタッフも首をかしげている。少なくともこのトンネルにまつわる謎の正体は、あのレスキューロボットを捕えるに足る存在ではないことを見抜いたというわけだ。
「消えた車は、ここではないどこか違う空間にでも飛ばされちゃったのかしら?」
「それってつまり、異空間。。。?」
科学班スタッフたちはエリスの言葉にたじろいだ。そんなところに迷い込んだ人たちをどうやって救出すればよいのだろうか?
「何にせよ試してみましょう」
今度はエディー自身が進入すると申し出た。機械のせいであれスピードのせいであれ、自分自身で試せばわかることだ。慎重さは必要だが、行方不明になった人たちを一刻も早く救出せねばならない。時間が惜しい。
「ヴォルティカで一気に突っ込む。エリス、一緒に来てくれるかい?」
「モチのロンよ!どんな謎であれ必ず暴き出して解決してやりましょう」
ふたりは勇んでヴォルティカのサイドカーに乗り込んだ。
「しかし、あなたたちまでその異空間に迷い込んでしまったら。。。」
「ご心配にはおよびません。必ず帰ってきますよ。行方不明の人たちと一緒に」
―――エディーがそう言うのなら。
―――彼らなら何とかしてくれる。きっと!
「それではエディーさん、エリスさん、充分注意してください」
警察官の敬礼に送られてエディーはヴォルティカのエンジンに火をともした。
ヴォゥン!
大排気量を誇る青い猟犬の咆哮が無人のトンネル内に反響した。
(二)スダッチャーは見た
フルカウルの大型バイクが疾走する。
時速140キロ。特殊な事情ゆえ県警の許しは得ている。
ここは進入した車をことごとく消してしまう謎のトンネルだ。油断はならないが、とはいえそろりそろり走ってみてもしかたがない。どうせなら目の前に現われた謎の正体など反対側の出口まで跳ね飛ばしてやろうという勢いだ。
どれくらい走っただろう?何か出るならそろそろだ。
左右のナトリウム灯の光がひとつに連なって光る川のようだ。
エディーはサイドカーのエリスをチラリと見た。じっと前方を見つめたまま身じろぎもしない。勇んで乗り込んだものの、やはり彼女も緊張しているのだろう。
「そろそろかな?」
それは出口のことか?それとも?
「そうね」
エディーの言葉に、エリスも曖昧に応じた。
その頃トンネルの外ではひとつの異変が起こっていた。
「ひゃああああっほおい!」
心配そうにトンネルの奥を覗き込む警官や国交省の職員達の前に奇声と共にいきなり現われたのは、赤いゴーグル・アイの全身緑の男だった。
緑の男はトンネルのある千守山の急な斜面を駆け下りてきた。生半可な運動神経でできるわざではない。いや、明らかに人間離れしている。
「き、キミは、確か。。。?」
「スダッチャーだい!」
緑の男はそう名乗ると皆の前で胸を反らせた。
「おい、今ここに入っていったのはエディーじゃなかったか?」
「ああ、そうだが?それがどう。。。おい!?」
スダッチャーはその答えを聞き終える前にトンネルの中へ駆け出した。
「エディー!今日こそオレとバトルだっ!」
「おいキミ、スダッチャーくん。入っちゃいかん。戻って来たまえ!キミぃ!」
警官の制止などスダッチャーの耳には届いていなかった。
しばらく千守山の杉の巨木の中で暇をもてあましていた。バトルする相手も無く、無駄にエネルギーだけが体に蓄積されてゆくのが腹立たしかった。ところが、いつも聞いていたエンジン音とはひと味もふた味も違う鋭い音に木から顔を出して覗いてみると、なんとエディーとエリスがあの青いマシンでトンネルに入ってゆくではないか。
ここで会ったが百年目だ。
「こら待てぇ!バトルだ。エディイイイイイ!」
その声はエディーのヴォルティカの爆音に劣らずトンネル内に鳴り響いた。
「エリス、気をつけろ。そろそろだぞ」
エディーはタンクに胸をつけて姿勢を低くして隣のエリスに注意を促した。
「エディー」
前方を見つめたままエリスが呼んだ。
「なんだい?今は周囲の気配に集中して。。。」
「エディー。停めて」
なにやら思いつめたようなエリスの声に、エディーはサイドカーのエリスを見た。彼女もじっとこちらを見ている。
「ヴォルティカを停めて、エディー」
その声のトーンにただならぬものを感じたエディーは、その場でヴォルティカを停止させた。
「どうかしたかいエリス?何かヤバイものを感じるのか?」
ヴォルティカのアイドリング音だけがトンネル内に響く。
「ねえ、このトンネルに入ってどれくらい走ったかしら?」
エリスの言葉に、エディーははじめて走行メーターを見た。
「7,348メートル!?そんな馬鹿な。」
千守山トンネルの長さを優に超えている。それどころか往復できるくらいの距離を走っていることになる。
「まさか。。。じゃあ俺たちはもう?」
「ええ。会敵しているみたいね」
エディーはヴォルティカのエンジンを切った。
しんと静まり返ったトンネルの中でエディーたちはヴォルティカを降りた。まったく気づかなかったが、この時点で既にエディーたちは謎の敵のワナに絡め取られていることになる。このままでは、入ったが出て来ない被害者リストに名前を載せられてしまいかねない。
「どうやら私たち、出口のない異空間に閉じ込められちゃったってわけね」
「そういうことになるな。やっぱりワナの発動はスピードだったんだ。だけどこれでいいんだよ。行方不明の人たちを救うためにはどのみちここに来るしかないわけだし」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずってね」
「そういうこと」
エディーとエリスは頷きあうと無言で歩き始めた。センターラインの真上。ナトリウム灯に照らされたオレンジ色の静かな世界だ。
しばらく歩くとゆるやかな右カーブが見えた。
「む?」
曲がった先のナトリウム灯が消えている。真っ暗だ。
エディーは片手で背後のエリスを自分の真後ろに寄せた。
そして暗闇に足を踏み入れた途端、背後のエリスが小さく「きゃっ」と声を上げた。
トンネル全体を塞ぐように巨大な何かが覆いかぶさるようにこちらを見ている。
「昆虫のモンスター?」
予想外の敵の姿にエディーも息を呑んだ。
無数のトゲが生えた甲羅を背負ったような巨大なボディに不釣合いな小さな頭。その口元からはこれもアンバランスな大きさの超巨大な大アゴが突き出している。
何より異様なのは、小さな頭部の中央に逆三角形に配置された3つの目だ。昆虫独特の目ではなく、大きく見開いたまん丸の人間の目なのだ。それらがまばたきもせず三者三様の動きをする。ぐりぐりとせわしげに動いて気持ち悪いことこの上ない。
途端、大アゴがギチギチと嫌な音を立てて動き始めた。
「うええ、きしょい!」
見上げたエディーもエリスの感想に同意した。とにかく一連の不可思議な事件の元凶はコイツに間違いない。
謎の正体を見たぞ!
「エリス、さがって」
エディーの全身からぶわっと闘気が膨れ上がった。
昆虫モンスターに向かってダッシュする。
―――図体のデカいヤツは懐に潜り込んでしまえばこっちのものさ。
クレーンゲームのアームを何十倍にも拡大したような大アゴがエディーを捉えようと降ってきた。それを巧みにかいくぐり、路上を回転しながら一気に巨大昆虫へ接近した。
前足がすぐ近くにある。
―――まずは足1本。
エディーが前足の節に拳を叩きこもうとした時、突然エディーの動きが止まった。見えない壁にぶち当たったようだ。
「なに!?」
実際には止まってはいないが、ノロい。まるでスポ根アニメに出てくる強力なバネがついた重いギプスを全身にまとったようだ。体重も数倍になったように感じる。
「くそ!動きが鈍い」
こうなると敵の懐に入ってしまっただけに危険度は急上昇だ。
「エディー、どうしたの!?」
離れてみているエリスにはまったく訳がわからない。
いつの間にか昆虫モンスターの3つの目が一斉にエディーをじっと見つめている。
ブン!ガシッ!
ぐわっ!
叩いて砕こうと目論んだ前足で逆に弾き飛ばされ、エディーはふたたび大アゴの攻撃圏内に放り出された。
ギチギチギチギチギチギチ。
気味の悪い音が再びエディーの左右から聞こえる。
「エディー逃げて!止まっちゃダメ!」
エリスの叫び声がトンネル内に反響した。相棒の指示に従ってエディーは言うことを聞かぬ鈍重な体に鞭打ってやみくもに路上を転がった。巨大昆虫から距離を取るに従って少しずつ体の早さが戻ってくる。首の付け根を狙って左右から飛来する大アゴの先端を気配で察知し、エディーは大きく後方へジャンプした。
ガキン!
獲物の残像を挟み込んだ鋭い大アゴの先端がぶつかって火花を散らすのを空中で見ながら、エディーは大アゴの間合いの外へ着地した。
「直接攻撃ができないならこいつでどうだ!?」
エディーは全身にみなぎる渦のエナジーを両の掌に集めて練成し青いソードを出現させた。
昆虫モンスターの3つの丸い目は依然エディーをじぃっと見ている。
意識をソードの切先に集中させて大上段から一気に振り下ろす!
「タイダル・ストォーム!」
ビシュッ!
振り下ろしたソードの残像が光の鎌に変じて巨大昆虫モンスターに向って真っ直ぐに飛んだ。
―――実体のない光の弾丸だ。これならどうだ!
エディーには勝算があったが、光弾が大アゴの間合いに入った瞬間、それは落胆に変わった。
光弾はまるで空中で急ブレーキをかけたように減速し、強固な大アゴによってピンボールよろしく難なく弾き飛ばされてしまった。
「タイダル・ストームも効かないのか」
エディーはソードを構えたまま後方のエリスの傍らまで後退した。
「エディー大丈夫?一体どういうことなの?」
心配するエリスにたった今自分の身に起こったことを手短に説明したエディーだが、渦のバトルスーツの中ではまだ冷や汗が流れている。
「巨大モンスターを相手にしてスピードを奪われるのは厄介ね」
エリスも思案顔だ。
どうやら巨大昆虫モンスターは今いる場所から動こうとはしない。その場所に何かあるのだろうか。いずれにしてもヤツの結界に入ったが最後、まるで大気の密度が数倍になって全身に絡みついてくるみたいで動きがとれない。そんな中で一体どう戦うのか?
エディーとエリスは昆虫モンスターのようすを見ながら、一旦作戦を練ることにした。
その時だ!
「見つけたぞおおお!」
「へ?」
けたたましい雄たけびに振り返ると、既にトンネルの天井近くまでジャンプして拳をふりかざして飛来する緑のカタマリがあった。
「うわっ!」
「きやあ!」
エディーは咄嗟に全身をガードしてダメージを最小限に抑えたが凄まじい破壊力のあおりをくらってエリスがトンネルの側壁に弾き飛ばされて呻いた。
「痛ぅ。おまえ、スダッチャー!?」
そう。正義も悪もない生粋のバトルフリーク、スダッチャーだ。今のは殴りかかると同時に全身をぶつけるスダッチャー独特の捨て身の戦法だ。
「バトルだ!バトルだ!かかって来いエディー」
声が弾んでいる。
「おいスダッチャー!うわっ、ちょ、ちょっと、くっ、待て、待てって。。。うわっ!」
エディーの制止もきかずスダッチャーの容赦ない攻撃が始まった。フック、ストレート、回し蹴りに後ろ蹴りと変幻自在のパンチとキックがエディーの側頭部を、胸板を、ひざがしらを襲う。
ズガッ!ドス!ガシッ!バシ!
ちょっと待てスダッチャー、こんなことをしている場合じゃない。目の前にとんでもない敵がいるだろう。とりあえず今は力を合わせてあのモンスターを倒そう。
と言いたいのだが、さすがのエディーもスダッチャーの高速アタックを防ぐのに精一杯だ。やっこさん、長い間暇をもてあましていたためエナジーは有り余っている。高速で繰り出されるひとつひとつの攻撃はとてつもない破壊力を秘めているため、防御に集中しないと巨大昆虫モンスターと戦う前に深刻なダメージを受けてしまいかねない。
だがパンチを受け流しキックをかわしているうちに、エディーもだんだん腹が立ってきた。
―――この深刻な状況でひとりはしゃぎやがって!
スダッチャーのストレートが顔のすぐ横をかすめた瞬間、エディーはその腕を掴み、脇の下を担ぐと腰をスダッチャーのボディーに当てて一気に投げた!
うおおおりゃああ!
懇親の一本背負いだ。だがエディーはスダッチャーの体を路面に叩きつけず、あえて両手を離して遠くに放り投げた。
「うおおおおおい。なんだぁ?」
空中で飛ばされながらスダッチャーはエディーの不可解な攻撃に首をかしげた。
難なくクルリと体をひねってきれいに着地する。
「へへへ。なんだその腑抜けた攻撃は?もっとこうバシッと。。。うん?」
スダッチャーはようやく自分の周囲で聞こえるギチギチという耳障りな音に気づいた。
グァシッ!
巨大な大アゴがスダッチャーのこめかみめがけて襲いかかったが、間一髪その先端を掴んで食い止めた。
「うおおおお!なんだコイツ!?おいエディー、一体どうなってる?」
ギギギギギギ。
巨大昆虫モンスターは底知れぬパワーでグイグイ締めつけてくる。
エディーはスダッチャーをあえて巨大昆虫モンスターの大アゴの間合いの中へ放り込んだのだ。荒療治だが、言ってもわからぬバトルフリークの目を覚ますにはこれしかなかった。
「いででででで!」
スダッチャーは大アゴが頭部に食い込むのを防ごうともがいているが、さすがに巨大昆虫モンスターは獲物を捕えることについては尋常ならざるパワーを発揮するのか、状況はいっこうに好転しない。太い大アゴの一撃をそれぞれ腕一本で食い止めるスダッチャーの腕力も凄まじいが、それでも次第に大アゴの先端が頭部に食い込んでくる。鋭い大アゴにこめかみを破られてしまうのも時間の問題だろう。
この忙しい状況に乱入して事態をさらにややこしくしたスダッチャーに腹を立てていたエリスも次第に心配になってきた。
「あいつのことだから、死にはしないだろうと思っていたが」
「なんだかキツそうよ。。。」
ついに掘削機の先端に取り付けられたクラッシャーのような鋭いツメがスダッチャーのこめかみを捉えた。緑の頭部が圧迫されて歪んでいる。少しでも両腕の力を緩めたら瞬時に頭を潰されてしまうだろう。
「くっそおお。体がうまく動かねぇ。どうなってんだ!?」
どうやらスダッチャーもエディーと同じように濃密な空間のワナに取り込まれているようだ。
「しかたがない。トオオリャアア!」
エディーはふたたびエディー・ソードをその手に練成すると、グリグリとせわしなく動くモンスターの目のひとつを狙ってタイダル・ストームを放った。
バシュッ!
放たれた途端ターゲットめがけて矢のように飛んだ光弾は、敵の間合いに入るやまたしてもスピードをガクンと落とした。だが、さすがに目への攻撃を嫌ったのか、巨大昆虫モンスターはスダッチャーの頭部から大アゴをはずしてエディーの光弾を弾き飛ばした。
「今だスダッチャー。こっちへ戻れ!」
エディーの声を聞いてスダッチャーは遮二無二声のほうへジャンプした。着地と同時にエディーが迎えて肩を貸してやる。スダッチャーはこの時振り返って初めて真の敵の姿を見た。
「オマエかこの野郎!ううう、ひでぇ目に遭ったぜ。イキナリ攻撃するなんてひでぇな」
元気のカタマリのようなスダッチャーもさすがにしんどかったとみえて路面にペタリと座り込んだ。
「どの口が言うのよ。イキナリ後ろから跳びかかったりして!」
エリスもおかんむりだが、どうやらこれでゆっくり話が出来そうだ。
「俺たちはさっきからあのバケモノと闘っていたんだ。オマエが乱入してくるまではな」
「まったく。邪魔しないでよね!」
「それならそうと早く言って。。。」
「言うヒマなんてなかったでしょうよ!」
エディーとエリスが左右からしかりつけ、スダッチャーは首をすくめて「さーせん」と呟いた。
ともかく一旦あの巨大昆虫モンスターから距離をとろうということになり、3人はもと来た方へ移動し始めた。今のところ目の前の巨大昆虫モンスターはまったく移動しないが、さりとて油断はできない。敵のことを何も知らないのだから用心するにこしたことはない。
ゆるいカーブを曲がり、再びナトリウム灯のオレンジ色の世界に戻った。
「追ってこないかな?」
「油断しちゃだめよ」
カーブの向こうを窺うエディーたちを見てスダッチャーはケラケラと笑った。
「来ないよ。ああいう連中は前へは進まないんだよ。それに滅多に巣から離れようとはしないから大丈夫だって」
スダッチャーは平然と言い放ち、エリスが拳を握り締めた。
「ところでスダッチャー、おまえどうしてこんな所に来たんだよ?」
「そりゃエディーとエリスちゃんがこのトンネルに入ってゆくのを見かけたからさ、偶然ね」
「それでバトルしたい一心でトンネルに入ったってわけね。まったくあきれるわ」
「ちょい待ち。ということはおまえ、いったいどんだけの速さで走ってきたんだよ!?」
えへへ、さぁね。と笑うスダッチャーをエディーは呆れ顔で見つめた。まったくこの超人のポテンシャルははかりしれない。
「それにしてもありゃ呑土羅じゃねえか。あのお化けアリジゴク野郎、こんな所に巣をはっていやがったか」
「まったくだ。よりによってこんな所に。。。って?」
はああああ!?
えええええ!?
「どんどらぁ!?」
エディーとエリスがスダッチャーの左右の耳を同時に引っ張った。
アテテテ。
「あなた、あのモンスターのことを知ってるの?」
「何だよ呑土羅って?何だよお化けアリジゴクって?」
「あれってアリジゴクのモンスターなの?」
「アリジゴクって土の中にいるんじゃないのかよ?」
モンスターの大アゴに挟まれたと思ったら今度はエディーとエリスが左右から耳をひねり上げて矢のような質問だ。今日はよく挟まれる日だ。
エリスが胸ぐらを掴んで前後に揺さぶった。
「でもって、巣って何よ!?」
カクカク。
「このトンネル全体があのモンスターの巣になってるってことか?」
カクカクカク。
「他に何を知っているの?」
カクカクカクカク。
「教えろ!あいつの弱点」
カクカクカクカクカク。
「先につかまった人たちはどうなっているのよ?」
カクカクカクカクカクカク。
「どうすればこの巣から抜け出せるんだ!?」
カクカクカクカクカクカクカクカクカクカクカクカクカクカク。
お・し・え・な・さ・い!!!
「頼むからそんなに一気に質問しないでくれよぉ。うえええん」
バトルなら相手が何人いようがひるまぬつわものだが、こうまくしたてられたのではかなわない。スダッチャーはベソをかいた。
「言うから。。。ひとつひとつちゃんと言いますから。ひっひっ、ひっく」
スダッチャーはしゃくりあげながら路肩の歩道に腰を下ろすとあのお化けアリジゴクについて話し始めた。
それはスダッチャーがよく休ませて貰う大きな杉の木じいさんから聞いた話だった。
(三)杉の木は見た
江戸時代中ごろ。
千守山越えの街道は讃岐と阿波を行き来する旅人で賑わっていた。
特に阿波の特産である良質の藍玉を求めて多くの商人たちが阿波を目指してこの山道をやって来た。
徳島藩のほうでも藍は禁制の品とされており、街道に関所を設けて抜け荷を厳しく取り締まった。
関所の手前の峠には一軒の茶屋があった。
茶と団子を出す粗末な名もない茶屋であったが、これから関所へと向う旅人は皆この茶屋で身なりを整え、無くさぬようにと荷の奥のほうに仕舞いこんであった手形を取り出して役人に怪しまれないよう支度した。中には役人の心証を良くしようと袖の下を用意する者もいた。
団子はとりたてて旨いものでもなかったが、茶屋の娘の愛らしい笑顔が評判であった。
今朝も若い商人風のふたり連れの男たちが峠の茶屋で茶を飲み、代金を払って出立した。しばらく街道を進むと、二人は互いに目配せするとスッと真横の藪に飛び込んだ。
関所とはいえ通行手形を持っていれば恐れることもないのだが、手形も持たず腹に一物ある連中は山に入ってけもの道などをたよりに阿波へ密入国しようと企んだのだ。
それを茶屋の裏で薪を割っていた下男がじっと見ていた。下男は店の方へ手を振って合図を送ると、看板娘がふたりの人相風体を記した紙を小さな筒に入れ、鳩の首にくくりつけて飛ばした。その作業を行なう娘の顔には客をもてなす時の愛らしい笑顔は微塵もなく、目には鋭い光が宿っていた。
茶屋の者たちは、徳島藩の代官の息がかかった密偵であったのだ。今のふたり連れのように関所を破らんとする無法者がおればただちに知らせる役目を負っていた。
まっすぐ関所へ向って行けばよし。さもなくば茶屋からの知らせを受けた代官所が山麓にあらかじめ網を張り、たちまちにして捕縛してしまうというわけだ。
陣笠を被った侍の指示のもと、さすまたやら突棒やらを手に大勢の捕り方たちが下山してくる咎人を今や遅しと待ち構えていた。
だが、昼を過ぎ日が西に傾いても人はおろか猫一匹降りてこない。関所破りが発覚しておきながら捕縛できなかったとなれば代官の責任問題となる。捕えるまでは戻ってくるなとハッパをかけられた配下の者たちも目を吊り上げて商人風のふたり連れを待った。
役人達の先回りを感づいて山中に潜んでいるのか?山麓の警戒をそのままに、翌朝を待って役人たちは茶屋側からふたり連れを追い立てるように山へ入った。
茶屋の下男を案内役に立てて4人の侍たちが山へ入った。
ところが今度は追っ手の5人までもがいつまでたっても山を降りてこぬ。忽然と姿を消したのだ。
ここにいたって代官所は本格的な山狩りを行なった。
もはや面子にこだわっているわけにはゆかぬ。奉行所からも応援を得て、鉄砲隊を含む総勢20名の侍と訓練された犬3匹を率いて代官自ら山に分け入った。
まず犬が放たれた。
「それゆけ!曲者どもを見つけるのじゃ」
しばらく元気よく山中を駆ける犬たちの鳴き声が後方の侍達の耳にも届いていたが、やがて聞こえなくなった。
「おかしい。。。」
犬を世話している小者が眉間に皺を寄せた。
犬の声が聞こえない。よく訓練された犬はあるじを呼び寄せる為に獲物とあるじの間で適度な距離を保ちつつ追跡を続ける。これほど長く行方をくらませることはないはずなのだ。
―――やられたのか?いや、商人風の男ふたりであの犬3匹を屠るのは不可能だ。
小者はうっそうと生い茂る巨木を見上げた。
嫌な予感がした。山は慣れているが今日は何か妙な気配がする。
慣れない山中で斜面に足を取られ髷を枝にひっかけながらも一行が山の最奥部へさしかかった時。。。
「うわわっ」
先頭の侍が悲鳴をあげた。
ずっと道なき道を進み、着物はほころび刀の鞘にも小さな傷が無数についていた。役目とはいえうんざりしていたところでようやく開けた砂地の場所を見つけて、やれやれと歩を進めたら突然足元が崩れた。
足の裏を空に向けるようにすってんころりんと見事にひっくり返った。
つい今しがたまで平坦な普通の砂地であったのに、中央がべっこりと窪んでまるで大きな大きなすり鉢のような形に変じており、周囲の砂がゆっくりと渦を巻きながら中央の最深部へと流れ込んでいた。
その流砂に乗って、侍も砂地の底へ底へと引きずりこまれるように落ちてゆく。
「いかん。ささ、それがしの手を。おあっ!?」
2番目の侍が駆け寄って手を差し出したが、こちらも同じように足元をすくわれてひっくり返った。
ふたりの侍の足をすくった巨大な砂のすり鉢は更に急角度になり、ふたりはその中央の最深部へと加速をつけてずるずる引き込まれていった。
「ひいいああああ!」
「お、おたおた、お助けくだされええ!」
先ほどは助けようと手を差し出した2番目の侍も、何とか助かりたい一心で先に落ちてゆく同僚の頭を踏み台にして上へ這い上がろうとしている。しかしもがけばもがくほど砂が足に手にまとわりついてふたりの体を下へ下へとひきずりこむ。
「いかん。皆さがれ!さがれ!」
無情にも後方の仲間たちはもはやふたりを助けようともしていない。
「そそ、そんな」
落ちながらふたりの侍は泣き出している。侍として生まれて、死ぬるときの心構えなどいろいろと叩き込まれてきたが、砂に埋まって命を落とすなど想定外もはなはだしい。
だがその想定外は次の瞬間更に裏切られることになる。
砂の最深部から巨大な氷ばさみを思わせる一対のツノのようなものが現われ、最初に落ちた侍の胴体を挟むと一気に砂の中へと引きずり込んでしまった。
「うわあああ!ひいいい!」
今や穴の周囲からかなり距離をとっている追跡隊の面々は皆、同輩の悲鳴に耳を塞いでいたが、やがて何も聞こえなくなった。
「千守山になにやら得体の知れぬ化け物がいる」
この噂はたちまち城下に広がり、背びれやら尾ひれやらが盛大に付いて、とうとう山をふた巻きもする巨大なムカデが巣食っているなどという瓦版が飛ぶように売れたらしい。
瓦版屋が名づけた化け物の名は「どんどら」。人を呑み込む土中の網という意味だそうだ。徳島城下はこの呑土羅の話題でもちきりだった。
中には「呑土羅封じ」などという怪しげな札を売って回るうろんな連中まで現われる始末だ。
千守山一帯を治める城の留守居役もこの事態を憂慮し、呑土羅に高額な懸賞金をかけて退治する者を募ったという。
何人か腕に覚えのある侍が挑んだそうだが、結果として呑土羅を退治したという話はいっこうに聞こえてこぬ。千守山に入った侍は誰一人として戻ってこなかったからだ。
そんなある日、千守山の麓近くの小さな寺に逗留していた旅の武芸者で牛島平四郎兼光という剛の者がこの怪異譚を聞き及び、土産話に是非その化け物を見てみようと、山に詳しい寺男を伴って千守山へ分け入った。この武芸者は特に弓の達人で、並みの者なら弦を引くことすらかなわぬ強弓を得意とした。
平四郎たちは千守山でまずイノシシを仕留め、それを片方を木に結わえた縄で縛って呑土羅が潜む砂地の端っこにふたり掛りでドサリと放り投げた。
急いで近くの巨木の陰に身を隠す。
ザザザザザ―。
はたして初め平らであった砂の地面はたちまち巨大なすり鉢状に変じ、イノシシの体は円の中心の最も深い所へとずり落ちていったが、縄で括られたイノシシはすり鉢の中ほどで止まっている。
なかなか落ちてこない獲物に痺れを切らしたか、ついに呑土羅がその異様な姿を現した。
体色は薄い茶色。全身は無数の鋭い棘で覆われている。何かの虫であろうが、見上げるほどに巨大だ。寺の本堂よりもはるかに大きい。特に氷職人が氷の塊を掴むために使う氷バサミのような大アゴがガチガチと嫌な音を立てている。
平四郎は息を呑んだ。
「なんと面妖な」
体の割りに頭が小さいが、その正面にみっつの丸い目がある。虫の目ではない。白目の中に黒目があるギョロリとした人間の目だ。
小さな頭に、大きくて丸い人間の目が逆三角形の形に並んでいる。それらがまばたきもせずグリグリと好き勝手に動いている。こいつはまぎれもなく妖怪のたぐいだ。
「これが呑土羅。。。気味が悪い」
寺男も呟いたが、緊張と恐怖で口の中がカラカラで声になっていない。
昆虫の化け物は大きな体を伸ばすと、人の体など容易く引き裂くであろう巨大な大アゴを振りかざして獲物のイノシシに襲い掛かかった。
それを逃さず、平四郎が強弓を引き絞り小さな頭部めがけて矢を射かけた。
矢は狙い通りに飛んだが、不思議なことに大アゴの上を通過するあたりでガクンと速度が落ち、人が駆け足をしている程度の進み方になってしまったではないか。呑土羅はそれを易々と大アゴで弾き飛ばす。
平四郎は再び矢を放つ。今回もまた矢は命中する寸前に速さを失う。
平四郎は少し思案していたが、何を思ったか弓に3本の矢をつがえて一気に放った。少し角度を変えて発射された3本の矢は呑土羅の3つの目をめがけて飛ぶと、今度は速度を落とさず飛んで見事に目を捉えた。しかし呑土羅は初めて瞼を閉じてその目を護った。太い木の幹でも射抜く平四郎の矢だが、閉じられた堅い瞼を貫くことはできず、鈍い音と共に弾き飛ばされた。
―――なるほどのう。
平四郎は頻繁に動く呑土羅の目に注目していた。
しばらくすると呑土羅は再び瞼を開いてみっつの目玉をグリグリとせわしなく動かしてあたりを探り始めた。
砂のすり鉢の中ほどで止まっているイノシシはまだそのままだ。用心深いのか、呑土羅はなかなか目の前の獲物を奪い取ろうとしない。
そこで平四郎は懐から1枚の紙を取り出した。墨で何やら書いてある。それは今朝出立前に「お守りじゃ」と寺の住職が渡してくれたものである。
前夜、山の化け物を見に行くと言った平四郎のために住職が種子真言を書いてひと晩祈祷してくれた退魔の護符であった。
平四郎は寺男が用意してあった握り飯の米粒を伸ばして矢軸に護符を貼りつけた。
「お守りのお札をどうなさるので?」
寺男が不審げに平四郎の作業を注視している。
「あの化け物の3つのギョロ目は3方向を同時に見られるようじゃが、獲物を狩る時や矢の速さを奪う時などは3つの目が一斉に同じものを見ておるのじゃ。よって3本の矢を一気に射てヤツの目を潰す。儂の矢ではあの瞼を貫くことは叶わぬが、ご住職の護符の功力をいただいて試してみようと思う」
しばらく矢も飛んでこないためか、呑土羅はようやく獲物のイノシシを大アゴで挟んだ。
―――今じゃ。
平四郎一行は木陰から飛び出すとさきほどと同じように弓に3本の矢をつがえると弦を限界いっぱいまで引き絞って放った。うち1本は護符が貼られている矢だ。
シュッ!
大気を切り裂く鋭い音と共に3本の矢はまたしても正確に呑土羅の3つの目を捉えた。
呑土羅が再び瞼を閉じる。
カツッ!カツッ!ザシュッ!
3本のうち2本は先刻同様固い瞼に弾かれたが、唯一退魔の護符を軸に巻いた1本だけは見事に瞼を貫いて深々と呑土羅の目を射抜いた。
ギイイイイエエエエエエ!
巨大な虫の化け物は初めて苦悶の鳴き声をあげると体をのけぞらせて天を仰いだ。
不思議なことに、中央の目に刺さった矢に巻かれた護符の種子真言が赤く光を放っている。赤い光の梵字がまるで命あるもののように矢軸を伝って次々と化け物の目の中へ入ってゆくではないか。
体を反らせた呑土羅はやがて細かく全身を痙攣させ、仰向けに倒れるとやがて動かなくなった。
その2日後、呑土羅の死体は砂に埋められ、代官所によって砂地に山の土が巻かれた。さらに平四郎に乞われた寺の住職がこの地を祈祷して清め、祠を置き、呑土羅を貫いた矢を奉納して封印とした。
それより以降、この清められし地に化け物の類いは一切現われなくなった。
(四)化け物の目は見た
「。。。というわけさ」
スダッチャーは語り終えるとふぅぅと大きく息を吐いてエディーとエリスを見た。
話をするのは得意ではない。かなり消耗したようだ。
エディーとエリスは巨大な妖怪に立ち向かった勇敢な牛島平四郎兼光に思いを馳せた。
「地中に何かエグイものが埋まっていることはオレも前々から感じてはいたんだ。ある日そのことを杉のじいさんに話したら、デカイお化けアリジゴクが封じられているんだって教えてくれた」
スダッチャーのバトル熱はもうすっかり冷めているようだ。今のところは。。。
「で、その化け物の遺体を安置してあった所にこのトンネルができちゃったってわけか」
「だけど封印されていたんでしょう?なんだって今ごろ蘇ってきたの?」
そうだ。過去のいきさつはともかく、それが最大の疑問だ。
「よくは知らないけどさ、この手の化け物がらみとなると当然思い浮かぶ連中がいるよな」
スダッチャーは同意を求めるようにエリスを見た。エディーが嫌な顔をしている。わかり過ぎるほどわかる話だ。
「やっぱり。ヨーゴス軍団の仕業ってわけなのね」
「仕業っていうか。。。少し前にこの辺のお地蔵さんとか氏神の祠を片っ端から蹴り倒して歩いている紫色のキツイ目をした気味の悪いヤツがいたって話は聞いたな。あちこちのいろんな木が文句言ってた」
エディーとエリスは顔を見合わせた。
「ヨーゴス・クイーン。。。」
はぁ〜。
ふたり揃った溜息がひっそりとしたトンネル内で妙にはっきりと聞こえた。
闇の中に泣き声が流れている。
しくしくしくしくしく。。。。
女の声だ。
だが誰かが泣いているからといって近寄ってようすを見てあげようという気にはならない。むしろ逆だ。
その泣き声の主は幼女のようでもあり、老婆のようでもある。
「いたい。。。いたいよう。。。しくしくしくしく」
まだ月の光だけで夜道を歩いていた頃、旅人をだまくらかして近くに呼び寄せ食い殺したという狐狸妖怪のたぐいを想起させる不気味な泣き声だ。
突然、その闇を突き飛ばすかのように大きな気配が近づいてきた。
「クイーン」
こちらは男の低い声だが、なにやら地鳴りの如き薄気味の悪い声だ。それが耳のすぐ後ろから聞こえてくるようで背筋に冷たいものが走る。
深い闇ゆえ何も見えないが、少し暗がりに目が慣れてきたならかえって我が目を固く閉じるだろう。
泣いているのはまるで獰猛なスズメバチを思わせる鋭い目をした全身紫色の魔女だ。床に座り込んで足をさすっている。どうやらそのあたりを痛めているようだ。
「いかがしたのじゃクイーンよ。何を泣いておる?」
「タ、タレ様ぁ。しくしくしくしく」
後から来た大きな男の姿はさらに奇怪だ。
蒼白い顔面には表情がない。それもそのはず、肉のないシャレコウベの顔なのだ。人の頭ではない。何かのケモノなのであろうが、動物学者が詳しく調べたところで何の頭骨かはわかるまい。下あごから突き上げるように伸びた鋭い一対のキバがその凶悪さを物語っている。
タレ様と呼ばれ、クイーンと呼ばれたふたり。
ヨーゴス軍団の首領タレナガースと、大幹部ヨーゴス・クイーンである。
タレナガースは肩から羽織ったケモノの毛皮のマントを翻してクイーンの傍らに屈むと、彼女が押えている右足に目をやった。
つま先から紫色の体液がだらだらと流れ出ている。
「わらわの足が、このようになってしもうたのじゃ」
タレナガースが覗き込むと、ヨーゴス・クイーンのつま先に刺傷が見られた。
「矢傷じゃな。誰にやられた。エディーめか?」
クイーンは泣きながら首を横に振る。
傷をしげしげと眺めていたタレナガースの目の奥に異様な炎が灯った。
「ただの矢傷ではないのう。クイーンよ、その矢を見せてみよ」
ヨーゴス・クイーンは闇の奥から1本の矢をつまんでタレナガースに渡した。とても古い矢だ。矢軸に何か紙が巻いてある。こちらも古いもので、触れるとボロボロと崩れて落ちそうだ。紙には墨か何かで文字のようなものが書かれているようだが、かすれていて判読できない。だが、タレナガースにはわかったようだ。
「やはりのう。これは退魔の護符じゃな。しかもまじないはまだ生きておる。よほど強き法力を持った坊主のしわざであろうよ」
それを聞いてヨーゴス・クイーンはより一層大きな声でおいおいと泣き始めた。
「どこでこのような目に遭うたのじゃ?」
「いつものように夜の散歩をしておったのじゃ。月もなく気持ちの良い闇夜であったゆえ山の中を歩いておると、結構あちこちに地蔵や野仏があってのう。それらを蹴り飛ばしながら歩いておったのじゃ。しばらく歩いておってふと見ると藪の茂みの中に古い小さな白木の祠がある。なにやら徳の高そうな悪臭がしたゆえこれは是非にも壊しておかねばと思うて力をこめて思い切り蹴っ飛ばしたのじゃ。すると祠の中にこのような矢が奉られておって、わらわの足に刺さったというわけじゃ。このような危ない代物を祠の中なんぞに入れおって!他人の迷惑と言うものを考えぬやからはいずこにもおるものじゃ!」
矢を睨みながらヨーゴス・クイーンは忌々しげに吐き捨てた。
「ほうほう、それは災難であったのう。わかったゆえ泣くでない。大幹部ともあろう者が!こちらへまいれ。余が手当てして進ぜようほどに」
しばらくしてヨーゴス・クイーンはタレナガース特製の毒軟膏をたっぷり塗ってもらってようやく落ち着きを取り戻した。
―――しかし、この矢も護符もかなりの年代物じゃ。何百年もの間祠に安置されながら効力を失わぬとは。この矢で一体何を封じ込めておったのじゃ?よほど恐れられておった魔物であったに違いないが。。。祠が壊されたなら封じられておった魔物も解放されたはずじゃ。クイーンめ、何を解き放ったのであろうな?」
タレナガースはそんなことを考えながらまだ泣きじゃくるヨーゴス・クイーンをじっと見つめていた。
「さて反撃に出るぞ」
「そうね。牛島平四郎さんの化け物退治は参考になったわ」
エディーとエリスは視線を合わせて頷きあった。
「おお!オレの話が役に立ったってか!?」
スダッチャーが指をポキポキ鳴らしながら立ち上がった。再び闘志が湧き上がってきたようだ。
「ええ、とっても役に立ったわ。ね、エディー」
エリスに褒められてスダッチャーは得意満面だ。
「急所は目なんだよな」
「それと、攻撃が一方向からだと呑土羅の3つの目のひと睨みでスピードを奪われちゃう。だから攻撃は分散して行なう」
「あいつの武器はとにもかくにもあのでっかいアゴだ。あれさえ突破すればなんとかなる」
「つまりその。。。今度は呑土羅野郎がバトルの相手ってことだな?」
エディーとエリスはニヤリと笑うと同時に頷いた。
「頼りにしてるぜ、スダッチャー。力を合わせてこの異空間を突破しよう!」
3人は拳をつき合わせた。
どうやらチームが3人になったようだ。
「いくぜ!」
「よしきた!いやっほおおう!」
エディーとスダッチャーが同時に跳躍した。
肝心なのは敵の3つの目に同時に見つめられないことだ。周囲の濃密な大気が体にまとわりついて素早い動きを封じられる。
エディーは一旦呑土羅の左側のトンネルの壁に跳び、反動をつけてギョロリと睨んでいる目のひとつへキックを叩き込もうと試みた。神速の三角飛び蹴りだ。
かたやスダッチャーは空中で体を丸めてくるくると回転した後で一気に体を伸ばして肩から突っ込んだ。
どちらも昆虫の目くらましを考慮した戦法だ。呑土羅の3つの目がめまぐるしく動く。
だが呑土羅は体を大きくブルンと揺すると大アゴを上下にしゃくって左右から飛来するふたつの危険分子を同時に払い飛ばした。
うわっ!
おおお!?
息が合いすぎたのが災いしたか。ふたりは天井のコンクリートにいやというほど全身を打ちつけて呻いた。
「もう一度だ」
「いいね!」
着地したふたりはすぐさま攻撃に転じた。
違う角度と高さからもう一度同時アタックだ。
自慢のスピードを維持したまま大アゴのガードを潜り抜けて頭部にある忌々しい目に一撃を加える。繰り返し繰り返し、何度でもだ。
はあっ!
おりゃあ!
路面を転がってジャンプする。
残像が残るほどにジグザグに走る。
トリッキーで素早い動きだがなかなか大アゴのガードを突破できない。なにせゴールよりも大きなゴールキーパーなのだ。
まだまだ!
とぉりゃあ!
この凶悪な大アゴさえ突破できればキツイ一撃を食らわせてやれるのだ。かつてモンスターはじめさまざまな難敵強敵をしりぞけた一撃を。
「まだいけるな、スダッチャー!?」
「まだまだいかせろ!エディー!!」
もう何度目かのアタックだ。
「スダッチャー、ソードでいこう。狙いを一旦あの大アゴに絞ろう」
「オッケーいいぜ」
エディーは渦のパワーを両手に集めて練成し、青く光る両刃の剣を出現させた。
スダッチャーはどこからか1本の木の枝を取り出して口元に寄せてなにやら呪文を唱えた。すると木の小枝はソフトボール大のスダチが5つ串刺しにされたような変わった剣に変貌した。
切り裂く剣と爆裂する剣。使い道は異なるがどちらも威力は抜群だ。
ふたりは剣を構えるとトンネルの左右に分かれてお化けアリジゴクに向った。
まるで大きな門が閉じられるかのように巨大な大アゴが頭上から落ちてくる。それをエディーは下段から斬り上げ、スダッチャーは大太鼓を打つように叩いた。
ザシュッ!
ズドゥン!
だが、岩をも切り裂きあるいは粉砕するふたつのソードの一撃を以ってしても呑土羅の大アゴには傷ひとつついていない。まるで鋼鉄の壁のようだ。
―――文字通り鉄壁のガードってわけか。
エディーも舌を巻いたが、その時業を煮やしたスダッチャーがひとり飛び出した。
「スダッチャー待て!タイミングを。。。」
エディーも慌てて飛び出したが既に遅く、スダッチャーは大アゴの守備範囲内に飛び込んでいた。
呑土羅の3つの目が同時にスダッチャーを見た。そしてワンテンポ遅れて飛び込んできたエディーも。
「ありゃりゃ?」
「うわっ!」
高速で動いていただけに急にスローモーションになるとすごい衝撃を食らう。見えない蜘蛛の巣に絡めとられた哀れな小さな虫のようだ。
三つの目がエディーとスダッチャーを同時に視界に捉えていた。
巨大な大アゴがふたりを挟んで捻り潰さんと動き出した。
―――まずいぞ、これは。
その時、太いエンジン音が沸き起こった。
ブウォン!
エディーの視線の端を青い何かが高速で走ってくる。それだけでわかる!
「ナイスだ、エリス!」
それはエリスが駆るヴォルティカだった。
ヴォルティカは鋭い先端を光らせて迫る大アゴの下を一気に駆け抜け、呑土羅の頭部の真下まで来るとギャギャッギャッ!とタイヤを鳴らしてヘッドをもと来た方へ回転させた。
呑土羅のギョロ目のひとつがヴォルティカを追ったおかげでエディーとスダッチャーにかけられていた呪縛が解かれ、ふたりは再び本来のスピードを取り戻すことが出来た。
大きな丸い目にギロリと睨まれたエリスは背に悪寒が走って身震いした。
「気ぃ持ち悪ぅい!」
急いでアクセルをふかして大アゴの攻撃範囲から離脱する。同時にエディーとスダッチャーも後方に一時撤退した。
「ああああ。うまくいかねぇ。イライラすんなぁ!」
スダッチャーは緑のマスクを赤らめている。
「落ち着けスダッチャー。焦ればふたりのタイミングが狂う。またあの3つ目に睨まれて動きを封じられ。。。おい!」
エディーの制止もきかず、スダッチャーはスダチ・ソードを振り上げて走り出した。
が!
ぐえええ!
首根っこをエリスにムンズと掴まれて両手が虚空をさまよった。
「待・ち・な・さ・い・って言ってるでしょ」
エリスはふたりを傍らに集めるとお化けアリジゴクの頭の下あたりを指差した。
「ホラあれ、な〜んだ?」
「おお!」
エディーにはすぐわかった。
「エディー・コアじゃないか」
「さっきヴォルティカで突っ込んだ時、あそこに置いてきたのよ。今からコアを発光させるからその隙に、ね」
エディーが親指を立ててニヤリと笑う。スダッチャーも真似して親指を立てるが、たぶんわかっちゃいない。ただ、これから突撃をかけることだけは生来の勘で理解しているようだ。まぁ彼の場合はそれでいい。
エリスが遠隔操作の起動スイッチを入れると、エディー・コアが鮮烈な青い光を放ち、呑土羅の上半身をその光で包み込んだ。
ギイイイイ!
呑土羅は悶えた。光に驚いただけではない。邪を祓う清浄なる光に身悶えているのだ。
3つの目が白目をむいてビクビクと痙攣をはじめた。
「今だスダッチャー!」
苦し紛れに振り回される大アゴがトンネル内の天井や壁に当たって破壊してゆく。エディーとスダッチャーはその大アゴを踏み台にして大きくジャンプすると、渦パワーの輝きにあてられて苦しむ呑土羅の目に挑んだ。
ザシュッ!
ドガーーン!
グエエエエエエ!
エディー・ソードが呑土羅の左上の目を縦に切り裂き、スダチ・ソードが右上の目を爆破した。
ふたつの目を潰された呑土羅が苦悶の声と共に巨体を震わせる。
闇雲に振り回される大アゴをかわして、エディーは残った中央の目に向けて必殺のタイダル・ストームを放った。
「くらえ!」
ビシュッ!
ズガアアン!
今度こそ青い光弾は化け物の目に命中し、お化けアリジゴクは視力と妖力を失って悶絶した。
ギイイイイイアアアアアア!
苦痛に耐えかねて大きく反り返ったお化けアリジゴクは渦パワーの青い光の中でトンネルの天井に頭ごと突っ込んでそのまま動かなくなった。
バラバラと落ちてくるコンクリート片をよけながら、エディーとスダッチャーは化け物の傍らへ寄った。しばらく後からエリスも恐る恐る歩み寄る。
「死んだかしら?」
「みたいだね」
「やったぜ俺たち。へっへー」
3人は顔を見合わせてハイタッチした。
絶命したモンスターはしばらくするとその体色がだんだん失せて、やがて透けて見えるようになった。
「エディー見て!あれ!」
エリスが透明になってゆく呑土羅の体を指さした。
トンネル全体を塞ぐほど巨大なアリジゴクモンスターとは正面から対峙していたため窺い知ることが出来なかったが、テニスコートが1面とれそうなほど馬鹿でかい腹部だ。その内部にいくつもの影が見える。
「車だ!」
何台もの車が飲み込まれているようだ。乗っている人たちは無事だろうか?この化け物がトンネルに巣をはってから何台もの車が消えている。いったい何日間ここに閉じ込められていたのだろう?食料も水もなく、だ。それを考えるとエディーとエリスの胸に暗い絶望感が湧いた。
その暗雲を打ち払ったのはスダッチャーの何気ないひと言だ。
「生きているんじゃねえの?」
「本当か?」
「望みがあるの?」
「ああ。車から出てなければ多分な」
そうとわかればグズグズしていられない。エディーはソードで大きな腹部を切り裂いて中へ入った。
化け物の内部はガランとしていて車だけが何台かそこにある。大きなガレージのようだ。
エディーは眼の前にある軽乗用車に駆け寄って中を見た。人がいる。気を失っているが、生きている!
「エリス、スダッチャー、手を貸してくれ」
エディーたちは車の中の人たちに手を貸して呑土羅の体の外へ連れ出した。中にはオートバイに乗って巣に飛び込んでしまった人もいたが、幸いな事に9人乗りの大きな車に乗せてもらって助かっていた。
腹に収められていたのは全部で11台。そこから21名の人たちが救い出された。
「こいつは、生き物ならすぐに溶かして養分にしちまうんだけど、こんな鉄とかは吸収するのが苦手なんだ。みんな車内に逃げ込んでじっとしていたのは正解だったな。それにこの巣の中は異空間になっているから内と外じゃ時間の進み方がかなり違うんだ。10日くらい飲み食いしなくても動き回らなきゃ体力の消耗は少ないんだよ」
スダッチャーはすっかり透明になって硬化しはじめた呑土羅の体をポンポン叩きながら平然と話している。
「お前、そういうことよく知っているんだな」
「そりゃそうさ。お前たちの渦パワーで斃せるってアドバイスも効いただろ?」
。。。???
「そんなこと言ったっけ?」
「いいえ。私聞いてないわよ」
「あれれ、言わなかったっけ?でもエリスちゃん、ちゃんとコアを置いてきたじゃん。あれ?俺が言ったからじゃなかったっけ?」
エディーとエリスは無言でスダッチャーに近寄ると、エディーが背後から羽交い絞めにし、エリスが正面から首を絞めた。
「知っていたのなら早く言えよな!」
「あんなに苦労したのに!あなただって苦戦していたじゃないのよ。どうしてはじめに言ってくれなかったのよ!」
ふたりに責められながら、それでもスダッチャーはエヘラエヘラ笑っている。
「でも楽しかったからいいじゃないか」
その言葉を聞いた二人はもう力が抜けてしまった。
(五)ひこうき雲は見た
「おおい。無事なのか?」
その時、トンネルの反対側から声が聞こえた。
アリジゴクモンスターが斃されたことで閉ざされた異空間がもとの世界と繫がったのだ。
見るとすぐ近くに反対側から差し込んだ陽光が届いている。
異空間が消滅した瞬間、外から心配げにのぞきこんでいた職員達の顔に奥のほうからヒュウと一陣の風が吹いた。それを合図に、皆勇気を出してトンネル内へ入ったのだ。
エディーとエリスの指示で車内にとじこめられていた行方不明の人たちが外へと連れ出され直ちに病院へ搬送された。
行方不明の人たちは全員救出されたことが判明し、その無事が確認された。
「日の光だ」
閉ざされた異空間を突破したエディーが青い空を見上げてつぶやいた。雲ひとつない空にひと筋のひこうき雲が伸びてゆく。まるで見えないペンで真っ直ぐな線を引いてゆくようだ。
あの天空から美しい緑の山々を見下ろしているのだろう。
「気持ちがいいわね」
エリスも視線を上げた。
しかし日の光の暖かさと山間を渡る風の心地よさに、かえって長時間呑土羅の体内に閉じ込められた人たちの苦痛を思い知らされる。
被害に遭った人たち、早く元気になってもらいたい。
陽光がまぶしいと言ってスダッチャーはまたガードレールを越え、さっさと山へ入っていった。今頃はどこかの大きな木の中で寝息を立てているのかもしれない。
しかしエディーたちはそうもゆかない。戦いの疲れは残っていたが、エディーとエリスは再びヴォルティカに跨った。
化け物アリジゴクは長い時を越えて襲ってきた。トンネルというありふれた日常の中に、恐るべき異空間を創出して人々を捕らえていたのだ。
今回は偶然テレビ画像に映っていて気づいてくれた人がいたから手遅れになる前に対処できたが、まったく油断ができない。
もしかしたら今この瞬間もどこかで誰かが助けを求めているかもしれないのだ。
助けてエディー!
早く来てくれ渦戦士たち!
その声に必ず応えてみせる。
「これからもしっかりパトロールを続けなきゃね」
「ああ。地道に、確実に、だな」
ふたりの渦戦士は徳島の平和を守りぬく決意を新たにした。
「さぁ行こう!」
(完)