「ウルトラマンになった男」
古谷敏 著
小学館
円谷プロダクション監修
ISBN978-4-09-387894-4 定価1.785円
ウルトラマンが好きだ。 子供の頃も、今もだ。 ハヤタ隊員のベータカプセルが閃光を放つや、グングングンと現われる異形の超人。 銀色のボディに流れる赤い複雑なライン。 全体的にスリムな体つきだが、胸や肩には筋肉の隆起が見られる美しいフォルム。 胸の筋肉と、その中央部に埋め込まれたカラータイマーという機械との絶妙なミスマッチがかもし出す、地球外生命体のリアルな存在感。
彼は炎の中に平然と立ち、陸上でも空中でも、水中でだって無敵なのだ。 彼にとっての3分間は、僕らには無限の時間。カラータイマーの点滅は、彼自身のピンチなどではなく、怪獣の最期へのカウントダウンだ。 ほら、来るぞ。必殺のスペシウム光線! 指先や目といった、それ以前の光線の射出部位とは違って、手のひらの側面といった珍しいところから撃ち出されるまばゆい破壊光線。その発射ポーズは、真似したがりの僕たちの心を鷲掴みにした。 読後、何かに突き動かされるように「ウルトラマン」を何本も観た。 現れた宇宙人の名前はウルトラマン。だけどこの本を読んだ今、そこにいるのは人間、古谷敏さんだ。 炎を恐れ、水に恐怖し、密着したゴム製スーツの中で吐き気と戦う古谷さんなのだ。 あれれ、ナミダが・・・止まらない。 もはや彼をひかりの国から来た正義の宇宙人とは思えない。 子供の頃のような気持ちで彼に声援を送れない。 だけど構わない。 放送終了から40数年経った今、ようやく聞かせてもらえた古谷さんの魂の告白によって、僕らは新しい感動を、今までの何十倍もの感動を与えてもらったのだから。 思えば、颯爽と胸を張るウルトラマンよりも、苦戦している時の彼が印象深かった。
ゴモラの尻尾に打ちすえられて悶絶する彼。 可哀想な雪んこの声に応じてスペシウム光線の発射をためらった彼。 そんな時、僕たちはウルトラマンの心を感じた。表情の変わらぬ異星人の怒りが、苦痛が、悲しみが、ブラウン管の前の僕たちに強烈に伝わってきた。それらはすべて古谷さんの演技の賜物だったのだ。 古谷敏さんという俳優を、今まで僕はウルトラ警備隊のアマギ隊員としてしか認識していなかった。 戦う集団ウルトラ警備隊にあって、物静かな頭脳戦のプロフェッショナル、アマギ隊員。 パラシュート降下が苦手で、爆薬が大嫌いなアマギ隊員は、ダンやソガと違って実戦では少々頼りなく見えた。しかし、ワイルド星人の生命を写し取るカメラによってピンチに陥ったダン(=セブン)を救ったのは、ほかならぬアマギ隊員である。ココ一番、やる時はやる男なのだ。
セブン終了後、芸能界を引退されたことは何かの記事を読んで知ってはいたものの、詳しいことはこの本を読んで初めて知った。ご苦労なさったようだ。特にこの本にも書かれていない91年から07年の16年間。いまだに書くことがはばかられることもあるのだろう。 16年は長い。 大切な仲間たちや自分を支えてくれた多くのファンの前から姿を消すのは辛かっただろう。 一方、消息が途絶えた古谷さんを、ひし美“アンヌ”ゆり子さんはじめかつての仲間たちがどれほど心配したのか、その心中は察して余りある。それだけに再会を果たすことができた彼らの喜びの大きさははかりしれない。 その気持ちは古谷さんと面識の無い我々ファンも同じだ。本当に、心から復帰をお祝いしたい。 トークショーやサイン会でいっぱいファンにも顔を見せていただきたい。子供の頃からの夢であったというスクリーンにもいっぱい出演していただきたい。人柄が伺えるやさしい笑顔にボクも会いたいです。 ぱごすけのようなオールドファンの中には既にお孫さんと大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説を観た人もいるはず。世代はまた、次へ移行しようとしている。 ウルトラは永遠だ。その壮大なシリーズの第一弾ロケットとして、圧倒的な推進力を発揮したウルトラマンに生命を吹き込んだ古谷さんの名前もまた永遠にファンの胸にクレジットされ続けるだろう。 古谷さん、ボクも死ぬまでウルトラです! |