エイトマン

1963年11月8日 〜 1964年12月31日  TBS 全56話


【警視庁捜査一課の刑事は全部で49人。7人ずつ7つの班を作っている。私はそのどれにも属さない8番目の刑事エイトマンである】

トランペットによるテンポの良い高らかなイントロ。幾筋もの光を背負ってすっくと立つエイトマンの雄姿。♪〜ファイッ!ファイッ!ファイファイファイ!エイッ!エイッ!エイッエイッエイッ!(Fight!Eight!ですよ、念のため)から始まるスケールのドでかいテーマソング。そう、エイトマンはとてつもなくスケールの大きな本格的SFハードボイルドロボットアクションアニメだったのです。

この年1963年は、日本テレビアニメ史においてはまさしく「紀元元年」とでもいうべき忘れ得ぬ年でした。鉄腕アトム、鉄人28号が放映を開始し、第3の作品として続いたのがこのエイトマンでした。私たち、いや、僕たちにとって分身とでも言うべき少年ロボットが大空を飛翔し、マジンガーZやゲッターロボ、ガンダムなどの始祖である巨大ロボットが夜のビル街で死闘を繰り広げ、そして今度は大人が主人公の探偵マンガとして新たなスゴイ奴が僕たちの前に現れたのです。

どうスゴイか、と言うと・・・。

@スーパーロボットという概念を最初に提示してみせた作品であること。

今「スパロボ」と言えば前述のマジンガーZやゲッターロボといった永井豪作品を本流とした搭乗型巨大ロボットを指すケースが多いようですが、私の知る限り、はっきりと「スーパーロボット」という名称を作品の中で語ったのはエイトマンが最初です。 普通のロボットじゃなく「スーパー」なのです。なんだかわからないけど、すごいロボットなのです。僕はこの呼称を聞いただけで無条件に胸ときめかせました。テーマソングにもあるように、エイトマンは「鋼鉄の男」です。普通の鉄じゃない。鋼鉄なんだ!(鋼鉄ってどんな鉄だ?う〜ん、硬い鉄なんだ。やっぱりすげぇ!)しかも硬い鉄でできているのに自在に変身するぞっっ!そう、エイトマンは変身モノとしてもハシリだったのですよ。主人公の東探偵からエイトマンへ変身するのみならず、背が大きかろうが小さかろうが、太っちょだろうがヤセぎすだろうが、誰にだって完璧に変身する。 ひとたび走れば新幹線など半笑いでブチ抜く超スピード!走っている姿が見えないのです。ただの斜線になっちゃってる!警視庁の田中課長が電話で東探偵を呼び出し、受話器を置こうとするとイキナリ机の上の書類が突風で巻き上がり、課長もイスからぶっ飛んでしまう。何事かと思いきやそこには今「来てくれ」と言われた東探偵=エイトマンが立っている。あんたムチャクチャでんがな。けど、当然なのです!エイトマンなのですから!!

A本格的SFハードボイルド作品であること。

今この作品を見直せば、おそらく誰でもが驚くでしょう、そのSF世界の完成度の高さに。原作平井和正(幻魔大戦、ウルフガイシリーズ他)。脚本豊田有恒(ヤマトタケルシリーズ、退魔戦記他)半村良(戦国自衛隊他)辻真先(迷犬ルパン、アリスの国の殺人他)といった錚々たるSF作家たちがキラ星のごとく名を連ねているのです。その作品群には、「超小型原子炉」「光線銃レーザー」「加速剤」「人工生命」「超高速振動装置」に「重力制御装置」などといったSF用語がひっきりなしに登場します。これが本当に昭和38年のアニメ創世記の作品なのか、と思います。

エイトマンの電子頭脳はそのあまりの精密さゆえ、長時間活動すると過熱してしまうのだそうです。(泣かせる設定!)  それを冷却するのがタバコ型の強化剤。ベルトのバックルに入れておいて定期的に吸うのですが、ヒーローが、スーパーロボットがタバコを吸ってる姿は、恐らく全国の“僕たち”にとって大人の世界へのあこがれと共にものすごく印象に残っているはずです。絶対やったでしょ、タバコチョコやらココアシガレットでエイトマンよろしく「ふぅ〜」って!今やったら禁煙運動の槍玉にあげられることうけあいですね。いやぁ、昔は良かった。

B桑田次郎さんの描くキャラクターたちがとにかくカッコイイこと。

桑田次郎先生といえば私にとってはリアル系漫画家の第一人者なのです。特に指先が美しい。拳を握った描写はもちろん、開いた手の指の一本一本がシュッとしていて美しい。デブの悪人の指までも美しい。それとエイトマンの全身がとにかくスマートでバランスがいい。そもそもエイトマンは8頭身でボディは見事な逆三角形なのですが、前傾姿勢で疾走する時は上半身が大きくたくましく描かれて、下半身(特に足先)は遠近法でだんだん小さく細く描かれている。そのふとももやふくらはぎの肉のつきかたが滑らかで、チョンと尖った形の良いつまさきに至る曲線が芸術的。とてもロボットのものとは思えぬ肉体美です。(桑田先生の「エリート」や「ウルトラセブン」など、ワンピーススーツ型のヒーローはすべてそうでした)その躍動感はまるでミケランジェロのごとし。(ちょっと大袈裟かな)

とにかく、アトムや鉄人の正太郎君、狼少年ケンなど、ほっぺがプクッとふくらんだお子様顔の主人公が中心のマンガ群にあって、頬がこけたエイトマンの面長な顔は大人の証しでした。(当時エイトマンを連載していた少年マガジンの巻頭グラビアにはよくエイトマンの特集が組まれており、桑田先生以外の方がエイトマンの解剖図や戦闘シーン、疾走シーンなんかを描いておられましたが、どれも“違う”のです。顔が違う。あのシャープなエイトマンは他の誰でもない、やはり桑田次郎先生だけのものだったのです。)

くわえて女性キャラがまた美人揃い!切れ長の目、真っ直ぐに高い鼻、真一文字に結ばれた口。少年漫画で女の子キャラと言えばウランちゃんくらいしか知らなかった私にとって、エイトマンに登場する女性キャラの流し目は色気さえあって、これまた大人の女性を感じさせました。東探偵の恋人サチコさんは言うに及ばず、光線銃レーザーの開発者水沢博士などは肉感的な美しい熟女で、銀座のホステスかと思うほどの美しさではありませんかっっ!(そうそう、そういえば桑田版ウルトラセブンのアンヌ隊員も素敵でした) とにかく、子供心にもエイトマンの見事なフォルムには見惚れたものでした。

 いかがです?緻密なSF考証に裏付けられたハードボイルドな脚本と、美しいフォルムのスーパーロボットがコラボレートした完成度の高いマンガが、TVアニメ放映開始のその年に既に作られていたという事実は、今更ながら私たちを驚愕させます。

 エイトマンの素顔は元警視庁の敏腕刑事で、一度は殉職した東八郎(最近はコメディアン東八郎さんを知る人も少なくなっちゃって、このネタでは笑いがとれないんですよねぇ。寂しいなぁ。Take2東貴博(=東MAX)のおとうちゃんですわな)という探偵なのですが、この人の探偵事務所は敵のスーパーロボットやデーモン博士なんかにしょっちゅう襲撃を受け、そのたびドアはブチ破られるわ壁に大穴はあくわ窓ガラスは粉砕されるわとさんざん壊されていましたなぁ。デーモン博士なんて、あの狭い事務所の中で超小型ミサイルを撃ちまくってブンブン飛ばしてましたもんねぇ。アブネー奴!  アマルコ共和国からエイトマンをこっそり持ち込んだ谷博士は豊かな白い口髭をたくわえた温厚な紳士なのに対し、眉毛の無いギョロ目のデーモン博士はソラリア連邦からやってきたマッドサイエンティスト。今考えると、当時のアメリカ合衆国VSソビエト連邦の冷戦をそのまんま反映させた形になっていたのですね。

ところが、エイトマン最大の敵にして谷博士のライバル“マッド”デーモン博士が、最終エピソードにおいて超人類ミュータント戦で一敗地にまみれたエイトマンを救出して谷研究所へ連れ帰ったばかりか、新兵器「超高速振動装置」の使用を谷博士に進言します。人類絶滅を危惧してのことだそうですが、これには見ている僕たちはぶっ飛びました。ここにいたって、デーモン博士は根っからの悪人なのではなく、単にエイトマンという高性能スーパーロボットを凌駕したかっただけなのだということに気づきました。まぁ、そのために新たなスーパーロボットやら新兵器やらをぶつけてくるので町は大パニックになっちゃって・・・(やっぱ悪人じゃん)   けれど人類最大の天敵襲来を前に、あのおっそろしいデーモン博士が味方についてくれたのは頼もしかったですね。今もはっきり覚えています。まるで、このあいだまで死闘を繰り広げていた高田と越中がいきなりタッグを組んだ時のようでした。(古)  それにしても谷博士とデーモン博士って、何故かおんなじコスチュームなのですよね。(そういえば黒い蝶の首領ドクターユーレイもマントしてたなぁ)けどデーモン博士のマントは内側に超小型ミサイルをいっぱい仕込んでいるくせに風にひるがえっているのです。恐るべし、ソラリア連邦の科学力!?

 科学といえば、谷研究所に設置された手術台。エイトマンが故障してしまった時などは、「わ〜んエイトマンが死んでしまったぁ」と泣き喚く田中課長を尻目に、谷博士が電磁メスで修理してくれるのですが、これまたカッチョイイ!すべての処置が終了し、高圧電流のエネルギーを全身に受けながらエイトマンが少しずつその上体を起こしてゆきます。あのシーン、よく布団の上で真似ました。ゆっくりゆっくり起き上がるので、腹筋が痛くなって必ず途中で手をついてしまうのですが、さぁエイトマンが復活したぞ。これから反撃だ!というワクワク感満載のシーンでした。

体はロボットでも心は人間の東探偵。今思えば助手のサチコさんと結構よろしくやっていたのではないでしょうか。サチコさんは東探偵にヤキモチやいたりしていることが多かったし、彼が行方不明になった時なんか、心配のしかたが尋常じゃないのです。(給料未払の心配なんかとはレベルが違う) 当の東探偵だって、オープンカーにサチコさんを乗せ「すっかり遅くなってしまった」みたいなことを言っているシーンがあったような・・・。どこで何をしていたのやら。まぁ、こっちはロボットですから滅多なことはいたすまいが。<^^;>

 当時は結構「エイトマンっぽい」パチモンイラストやシールなどが平気で出回っていましたね。そのへん大らかだったのかもしれません。番組のスポンサーは“のりたま”でお馴染みの丸美屋でしたが、そののりたまにエイトマンシールが入っていたのですよ。確かある程度大きな袋にしか入っていなかったような気がしますが、とにかくそのシールが欲しかった。ただ、その正規のスポンサーのおまけにして黄色や青や変な色のエイトマンが描かれていて、海賊版の一歩手前みたいな印象は受けました。

 さてここで、エイトマントリビアをいくつかご紹介します。(マニアなら知ってますよね)

@オープニングテーマのイントロのトランペットは桑マンのお父さんだったらしいです。

A第20話「スパイ指令100号」には何と国際警察のスパイとしてジェームズボンドが登場し、エイトマンと共闘しています。彼は最後に「ボンド、ジェームズボンド」と名乗るのですよ。

Bエイトマンは海外でも放映されました。第8番目の男「EIGHTH MAN 〜エイスマン〜」として。

Cエイトマンの歌を歌った克実しげるは殺人を犯して逮捕。桑田次郎先生も拳銃不法所持のカドで逮捕されています。

   アニメ版のラストは、超人類ミュータントを見事撃退(3人のうち一人は自滅して死亡。あとのふたりは逃亡)したハッピーエンドでした。エイトマン、谷博士、デーモン博士の3人が並び立つというスタート当初としては考えられないスリーショットで大団円。しかし、少年マガジンの方では、サチコさんに正体を知られた東探偵がいずこかへ去って行くという寂しいものでした。こういう颯爽としたヒーローものに似合わぬ悲しい終わり方をすると、必ず続編が生まれるものです。後に実写版エイトマン(演じるはウルトラマンマックスでDASH隊長を演じた宍戸開さん)やら続編アニメやらが作成され、今もマンガの連載が続いています。もちろん、続くこと自体は別に構わないのですよ。ただ、見る者の心の中で気持ちよく区切りがつかない、というのは良くないと思うのです。ウルトラセブンのラストもそうですが、見ている子供たちにトラウマを残すようなエンディングはいけません。これは「絶対に」いけません。

昨年(2005年)NTTフレッツ光のCMソングにも使用されたエイトマンのオープニングテーマ。軽快なマーチにのせて歌われるあの歌こそがエイトマンそのものなのです。僕たちを遠い世界の果てへといざなってくれる広大な広がりを持つあの歌を、私は今もこよなく愛しております。

♪〜光る海、光る大空、光る大地。ゆこう無限の地平線。走れエイトマン弾よりも速く。叫べ胸を張れ!鋼鉄の胸を!〜(うお〜1番全部書いてしまった)

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