仮面ライダー45周年記念超大作

仮面ライダー1号

2016年3月26日(土)全国ロードショウ


仮面ライダー本郷猛は改造人間である。

かつて、類まれなる明晰な頭脳と天才レーサーとしての運動能力を兼ね備えた青年であった彼は、地獄の軍団ショッカーに目をつけられて拉致され肉体の改造手術を施されてしまいます。

前途洋洋であった彼の人生は大きく狂ってしまいました。

本郷猛を忘れない!そして45年。。。

私たちが学校へ通っていたときも、受験勉強に明け暮れていたときも、就職したときも、結婚したときも、父親になったときも、本郷猛は世界のどこかで悪と闘ってきたのです。

必要最低限のお金を稼ぐために日雇いの仕事をし、場末の安食堂で食事をとりながら。

彼の人生はこんなはずではなかったはずです。なぜこんな辛い日々をおくらねばならぬのか。ショッカーだ。すべてはショッカーのせいなのだ。

本郷猛は不運でした。

そんな不運に見舞われて、私なら普通ではいられはしません。人のために闘うことなどできはしません。

彼は本来、端正な顔立ちの好青年でした。闘いにおいてもジャケットを着用し、美しくウェーブのかかった長髪を風に揺らしながら戦闘員たちをなぎ倒していました。とても美しい、正統派と言っていいヒーローだったのです。しかし今の彼は、いかに年齢を重ねたからとはいえ、美しさとは無縁の容姿です。そこにあるのは悪と戦い、単身での海外生活と戦ってきた男の逞しさです。しかし同時に全身から溢れんばかりの優しさを纏っています。

絶対忘れないさ!さて、この映画の隠れた注目キャラはなんといっても地獄大使です。(同郷のセンパイ大杉漣さんの地獄大使も良いのですが、やはり潮健児さんにやって欲しかったなぁ)極悪人でありながらも彼には彼の信義があり、いかに強くとも制御できぬ眼魔に支配されることをよしとせず、宿敵仮面ライダーとの共闘を選びます。そしてラスト、おそらく彼は仮面ライダー1号に倒されたかったのでしょう。「待て、本郷ぉ!オレと闘え!」ダメージを受けた体から搾り出す彼の声が悲しく響きます。

そんな地獄大使に本郷は「体をいとえ」と言い残して去ってゆきます。生かしておけばまた悪事を働くであろう悪の大幹部にも、本郷は命の尊さを持って接したのです。

この映画は、個人的にはあまり好みではない一連の白倉作品とはひと味違います。それはやはり「企画:藤岡弘、」ということによるのでしょう。

大切なおやっさんの孫娘マユちゃんと触れ合うという名目で本郷猛は教壇に立ちます。(まぁなんとおおらかな学園ですね、城南大学附属高校♪)そして語られる生命の尊さ。人は皆つながっているのだという魂の語らい。これすなわち藤岡さんの企画意図にほかなりません。

映画館でスクリーンの前に座る我々全員、本郷先生の授業を受けたのです。映画鑑賞のお代はそのまま授業料でした。

ゴースト目当ての小さいお子さんたちも大勢いた封切り初日。あの子らに本郷猛の講義は難しすぎたでしょう。ライダーに変身していない本郷猛の話にはあまり興味がなかったかもしれません。しかしいつか、5年後か、10年後か、あるいは家庭を持ち人の親になった時か、この映画のブルーレイを観た時に「ああ、そのとおりです」と思うでしょう。

この映画は人生をかけて闘った男からの、スクリーンをブチ抜いて届けられたダイレクトメッセージだったのです。

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