シ ン ゴ ジ ラ

  2016年7月29日(金)全国ロードショー  製作・配給/東宝


【楽しめるかなぁ?】

はじめに申し上げますと、私はギャレス・エドワーズ監督のゴジラを面白いとは思えません。ビジュアルも、鼻先がペッタンコでなんだかワンちゃんみたいだし、見た目もストーリーも(ゴジラ映画としてではなくモンスター映画としてなら)ローランド・エメリッヒ監督のゴジラに軍配を上げます。新しい真の「シン・ゴジラ」

さらに申せばパシフィック・リムも大して高評価をつけておりません。(良し悪しではありません。好き嫌いです。念のため)更に遡ればエヴァンゲリオンや進撃の巨人は今後どれだけ続編や新作が産みだされ話題を呼んでも見向きもしないでしょう。(もちろん食わず嫌いではありません。でもファンの皆さんごめんなさい)

そういう嗜好の私ゆえに、シン・ゴジラ鑑賞前はさすがに不安になっていました。

「これでシン・ゴジラまで面白いと感じられなかったとしたら、もう自分は未来永劫怪獣映画を楽しむことが出来ないのではないか?」と。

作品の謳い文句である「エヴァの庵野監督が挑む。。。」というコピーが不安をあおります。

〜大丈夫だ。庵野さんの背後には平成ガメラの樋口特撮監督が控えておられるし。。。〜とか思いながら、期待と不安が3:7くらいの状態で公開を待ちました。

そして私は、かつて平成ガメラをはじめて映画館で観た時と同じような「自分の知っている従来の怪獣映画が今、確実に変わった!進化した!!」という感覚をふたたび味わうことになります。それは特撮ファンにとってとても幸せな瞬間でした。

【シン?】

「シン・ゴジラ」とはいかにも庵野監督っぽいネーミングです。シンとは何なのでしょう?漢字で表せばやはり「真」もしくは「新」なのでしょうか?本当の。。。とか今までとは全く違う。。。という意味でのシンなのかもしれません。

新作が公開されると聞くにおよび、私は「ゴジラ THE REBORN」とか「ゴジラ COMES AGAIN」とかっていう漠然としたタイトルイメージを持っていました。「シン・ゴジラ」ってなんだか「真・仮面ライダー」みたいで、ちょっと傍系っぽい響きではありませんか?益々大丈夫かなぁ?

それに、いつもなら登場するであろうメーサータンクやスーパーXみたいな架空の超兵器もこの調子だと出てこないんじゃないかなぁ。(まったく出てきませんでしたね♪)

【現実 虚構】

あれよあれよと驚く前半!

海底トンネルの崩落事故のあたりは家庭用ビデオの映像が流され、まるでクローバー・フィールドのようです。緊迫感が増します!

政府の緊急会議が招集され(コレ以降、状況の変化に応じてさまざまな会議に変更され、それらがスクリーンには書かれているものの、全部読みきるまでに消えてしまってなんだかわかりません。途中から読もうともしなくなります。)謎の巨大生物による被害を最小限に抑えるべく「戦い」が始まります。この会議の描写がとてもリアルで「ほ〜」と見入ってしまいます。

そこへ海面から飛び出す巨大な尻尾!!!!!

「想定外すぎるっ!」

海からなんか出てきた。ゴジラか?いや、なんかようすが違うぞ?

ヘコヘコヘコヘコ。。。

「!?ぬゎんだコレは?敵怪獣か?いやしかしこんなモノが。。。?それに尻尾や背びれなんかがなんとなくゴジラっぽいし??」

現れた這う怪獣は東京を襲ったというよりも、まるで何かから逃れようと陸へ上ってきたように思えます。放射能を身体に取り込んで生きる道を選んだ異形の巨大生物は、エラからも大量の血を流していますし、とても生物としてまともな状態とは思えません。やがて痙攣をおこしたかのように屹立すると、天に向かって呪いの声を上げ再び海へと姿を消しました。

そして再び鎌倉沖に現れたヤツは天を突くような巨体をもって人間たちの度肝を抜きます。

ゆっくり、ゆっくりと陸へ侵攻するゴジラ。しかし過去作品に登場したかつてのゴジラと違うのは、この巨大生物が決して破壊の王ではないということです。街は破壊され、燃やされます。しかしあくまでもこのゴジラは放射能の汚染によって苦しむ、巨大なわが身を御することの出来ぬ、哀れな生き物なのです。もしかしたら放射能を海底に沈めた張本人たちに助けを求めて来たのかもしれません。「苦しい。。。吐きそうだ。。。なんとかしてくれ。。。」と。

そしてゴジラは嘔吐します。ゲエエエエエと口から放射性可燃物のゲロを猛烈な勢いで吐き出し、ついにそれは放射能火炎となって東京の街を焼き尽くします。それは、みずからがしでかした罪によって街ごと地獄の業火に叩き込まれたかのようです。

おぞましく進化してゆくゴジラ。

わずか2時間で東京都は深刻な被害を被ります。そして矢口官房副長官のもと、「首を斜めに振らない骨太のヤツら」が巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)に集まります。操られるだけの首相を中心に開かれる対策会議がリアルなら、対ゴジラの作戦立案を任された巨災対はなにやら架空の世界観を匂わせます。集まったメンバーの前で矢口副長官はこう言います。

「ここでは何を言っても査定には影響しない」(表現は正確ではありません)

ゴジラに立ち向かう精鋭に対して「査定は気にするな」なんていうセリフが過去の怪獣映画にあったでしょうか?これはシン・ゴジラという作品を象徴するセリフのひとつかもしれません。

作品のコピー「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」は実は政府サイドにもあてはまり、途方も無い状況に右往左往し、都民の被害拡大を食い止められなかった政府(現実)と、各省庁のアウトローたちが集結して絶体絶命の日本を救うべく活躍する巨災対(虚構)の対比が絶妙な隠し味となって、この作品の面白さを増しているようにも思えます。

一方、自衛隊出動要請がなかなか出ない政府に業を煮やした東京都知事たちの会話「災害対策マニュアルなんていつも役に立たない」「避難は都民の自主に任せるしかありません」も結構ドキッとさせられます。実際のところ、結局そうなっちゃうんでしょうね。

【主人公は誰だ?】

日本を救うべく活躍する矢口官房副長官。このストーリーで一番最初に「謎の巨大生物」の存在を対策会議上で示唆した人物です。はじめは馬鹿にされ、叱責されますが、彼だけが現実に目を向け、閣僚が居並ぶ会議328人のキャスト!主役ははたして上段の3人なのか?それとも?の進行を中断させてまで意見具申します。こんな彼だからこそこれ以降、唯一ゴジラの脅威に真正面から立ち向かってゆけるのかもしれません。(こんな政治家、実際にいてくれるのでしょうか?)従来の怪獣映画から逸脱したこの作品において、くじけぬ頼もしい「男」がいるという唯一セオリーらしきものを感じさせるのはこの人の存在です。

そんな彼があらゆる省庁から緊急招集した巨災対のメンバー。変人やらオタクやら、まぁ各部署での鼻つまみ者ばかり。だけど実力者揃いです。

そんな曲者ぞろいの巨災対でひときわ存在感を示す環境省の尾頭課長補佐(演:市川実日子)。

場の空気などまったく意に介さず、歯に衣着せぬ物言いで正鵠を射る彼女は、普段はさぞ部内でも煙たい存在なのでしょう。しかし、それでも彼女は課長補佐のポジションにあり、いざという時は「選抜メンバー」に抜擢されます。鬱陶しくてどっかへやりたいが、彼女の高い能力がそれを許さない。カッコイイです。組織の人間として私もああでありたいと思います。だけどラスト近く、ゴジラが残した放射性物質の半減期が思いのほか短く、事後の除染に希望が見えたときの彼女の嬉しそうな笑みに、人としての温かみや、矢口官房副長官と同じくこの国と国民に注がれる深い愛情を垣間見た気がします。

総じて言えることは、メインとなる国会議員たちや石原さとみ演じるパタースン嬢はじめ、登場人物たちは保身やらなんやらいろいろ利己的な部分もあるものの、皆この国と国民を護ろうと真剣です。

この国はいつもスクラップ&ビルドでのし上がってきた。いやしかしその前に。。。

この国はまだ戦える!

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